ひとつ 視線
木立 悟






静かに前髪が降りてくる
羽だけの鳥のように
やわらかな影のかたまり
ひらかれる ひらかれる ひらかれる指


見えない雪
目の痛み
息のはざま 光のはざま
土と風と無視の檻


林のなかの
樹の生えないところに
ひとつの巨きな手のひらが降り
何かをつかんでは再び昇る


遅い音が積み重なり
未明に夜をかがやかせている
灰と白の波の下の
昨日の家


ほどけてゆく
ほどかれてゆく
紅くなく まだ
重くない淵


蝶をやわらかくする食べ物が
速さを持たずに降りつづき
羽のあるものは見つめ
無いものは腕をひらく


手のひらは昇る
雲の上の晴れ
晴れの上の晴れまで
手のひらは還る
























自由詩 ひとつ 視線 Copyright 木立 悟 2017-02-08 11:22:41
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