島の空に浮かんでいた薄白い月
星丘涙
ただ、ただ淋しい島の夜に
波の音が煩く怒鳴っていた
雲は早い風に流され
様々な模様を作り
それを月光がやたら怪しく浮かび上がらせている
潮風で軋む扉の窓に潮がへばりつき
裸電球の下では爺ちゃんが島焼酎をグビグビ飲みながら
テレビで相撲を観ていた
幼い私はただ風の音が恐ろしく
島の淋しさの中で呆然としていた
爺ちゃんの身体は痩せているが腹だけ風船のように膨らんでいた
私はそれをいつも不思議に思っていたが口には出さなかった
今思えば島焼酎の飲みすぎであったのだろう
爺ちゃんは、あの晩も酒に酔って機嫌がよさそうだった
酔うと私に「俺はお前が結婚するまで生きられるかのう」と
何時も口癖のように言っていた
淋しそうであったが、それよりも島の独特の淋しさというか
私が生まれついて持っていた淋しさのほうが、遥かに勝っていたように気がする
その夜も淋しい夜であった
そしてそんな夜に限って薄白い月を眺めて
そのまわりで不思議に踊り逝く雲を眺めていた
爺ちゃんは、私が高校生の時に肝臓癌で逝ってしまった
その死は悲しく淋しいものだった
あの島の空に浮かんでいた薄白い月を今では見上げることはできないが
あの頃の淋しさは、今でも薄白い月を見るたびに思い出すのである