時雨模様
嘉野千尋

冬の終わり、
時雨模様
描かれるいくつもの輪のなかで
消えてゆくだけの悲しみがあり
雪にはなれず
かすかな温かさにふれたなら、
降りつもることすらできなくて



  一瞬だけ立ち止まり、そして
  わたしの語る言葉の上を通り過ぎていくそれは、
  まるで通り雨のようでもあり
  わたし自身もまた、
  誰かの通り雨なのだろうと気付く
  通りすぎる雨の、ただ一粒のためだけに捧げられる名を、
  わたしは今でも知らないまま



  一瞬の感情を、ただ一つとして留められずに
  それが去りゆくものであるのならば、去りゆくまま
  何も描き出さずに、ただわたしの上を通りすぎ、
  滲みこむのではなく、
  すこやかな額の上にも留まりきれずに
  こめかみへと一瞬で流れてしまうような、
  そんな儚いものでもいい、と



  残された言葉の中で考えている
  たとえば優しさに満ちた眼差しの意味を、
  沈黙にこめられた物語の続きを
  留めることができずに駆け足で去ってゆく、
  いくつもの雨粒を

  
わたしがそっと、
そっと小さく溜息をついたなら
そうしたら、立ち止まって
わたしを懐かしんでくれますか?
今日もまた、時雨模様

 


自由詩 時雨模様 Copyright 嘉野千尋 2005-03-06 19:28:31
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