逆再生
小林螢太
今はもう、溢れて
零れるだけのボトルは、意味を見失い
積み重ねられた日記帳は
終焉の時まで
ただ、埃をかぶるだけ
西の窓にさす夕焼けが淡く滲みだし
新月の海を羅針盤無しで航海する、無謀さで
白く塗りつぶした聖典に無限を刻みはじめ
吹雪が去ったよるに、ぼくは
君のまぼろしを視ている
いくつものデジャヴュを網膜に焼きつけ
風雨に曝されながら霧を通り抜けた
耳を塞ぐ昼間の向こうに、歪んだ希望が見える
冬に孵化する、翅の無い蝉
浴槽の蜃気楼
ロッカーに貼って黄ばんでしまった、ブロマイド写真
カーテンに二月の南風が吹き抜けて
冬の液晶をぼやかしていく
紅梅の妖精を纏いながら
花弁からいのちがほとばしる
乾いた砂丘に波が打ち寄せる、あの海の
巻貝の音に耳を傾ける
双頭の海猫が頭上から見下ろしている
ロゴスの前で二つの真理を探さないで
七色のひかりとリズム
エンゼルのささやき
ぼくの透明を青い風として表す
たとえ凍てつく闇夜のなかでも
ぼくを見つけてほしい