海辺にて
zitensha

あなたの静かな骨の上を一本の真新しい国道が通る
あなたの大きな悲惨の中を一つの真新しい意味が走る

眠るあなたの骨が今こうして車輪の下で砕かれていく

ぼくはその音を聞いているのだ
きみにはその音が聞こえるだろうか、骨が砕かれる、その音が

震えるような雨は降るだろうか
あの震えるような雨は
あの匂い立つような雨は
綾羅から新羅を超えて
新羅から満州へと至る
一つの回路を切り開く雨の匂いはどこへいったのか
雨は距離という距離を無化する
距離という距離を無化してぼくらはあなたに近づきたい
あなたの静かな骨に直接的に触れるために
我々はどんな手段でも用いなければならない
どんなに早く走ってもあなたの静かな骨に触れることはできない
どんなに遅く歩いてもあなたの大きな悲惨に触れることはできない

一本の国道がぼくらを遮断し横断する
一本の意味がぼくらを遮断し横断する
シニフィアンとシニフィエの間に
言葉が地表に着地する前に
意味が中空を漂っている間に
言葉と意味の間隙を抜って
我々が到達できるのは

あなたの静かな骨

海がなくなったからだ
一つの小さな海が

海がなくなってから我々はどこにも存在できない
一つの小さな海さえ我々に与えられはしない

海よ!綾羅木よ!
光れ!
光るんだ!
滲むんだ!
淀むんだ!
含むんだ!


どれだけ言葉を尽くしたところで、一つの小さな海の喪失を埋めることはできない
一つの小さな海の喪失はぼくらの記憶の喪失
ぼくらの記憶の喪失はほくらの身体の喪失
ぼくらは虚空に漂い、それでいて身体がない
ぼくらは虚無の中を走り、ひたすら鷲掴みにできるものを探す者たち
ぼくらは亡霊
祖国をなくした亡霊

今、ぼくは10月の透明な秋の光の中、湾曲した海岸を歩いている
ひとつの小さな海を弔うために

ここではあらゆるものが丸い
球体の地球の丸さ
風雨に晒された灌木の丸さ
角を落とされたガラス片の丸さ
白浜の一粒の砂の丸さ

丸いものは儚いものだ
丸いものは一瞬の夢だ
丸いものは目にも止まらない速さで破壊されていく

矩形のものがぼくらを切り裂いた
鋭利な矩形のものが
矩形のものはきみのなやましい記憶を直角に切り取る
球体の地球を水平線で真っ二つに割る
フレームのない海をフレームで分割する
矩形の暴力が世界を支配する
世界は矩形のもので創造され、破壊された
世界は矩形のもので再創造され、構築され、脱構築された

ぼくらは亡霊
ぼくらは矩形のものの支配する世界の中であらゆる叫びを聞く者たち
ぼくらはたった一つの叫びさえ見逃しはしない


世界は功利性と利便性の思惑
世界はひとつの国道
世界はひとつの意味
世界はあなたの静かな骨を打ち砕く

ぼくは、堤防に向かって一直線に歩くだろう
ロマンチックな恋人たちがぼくの目の前を通り過ぎる
十七歳のきみたちには分からないだろう
ぼくの見る海はランボーの見た海とは違うものだ
静かな骨を浮かび上がらせるために
大きな悲惨を蘇らせるために
ぼくはこうして歩いている

ぼくらが目にするのは見えることのないものだ
ぼくらが耳にするのは聴くことのできないものだ

ぼくは堤防に辿り着くだろう

ぼくらに必要なもの
それは叙情ではない
それは感傷ではない
それは美しい詩歌の世界でもない
ぼくらはたった一つの骨を手に入れるため
ぼくらはたった一つの悲惨を手に入れるため
国道から海を守る者
トンビのように空高く舞い上がる者


あぁ、あなたの静かな骨よ!
ぼくのやさしい恋人も
秋の透明な詩の世界も犠牲にして
震えるような雨の雫が欲しいばかりに
ぼくはこうして歩いている

ただ一つの言葉もいらない
ぼくはあなたの骨に触れていたいだけ
ただ一つのキスもいらない
ぼくはあなたの悲惨に触れていたいだけ
たった一つ、言葉が落ちるだけでもぼくは恐怖におののく
たった一つ、言葉が落ちるだけであなたの静かな骨はバラバラに崩れる
言葉はそのとき国道
一本の国道
A点からB点まで一直線に伸びる国道
ひとかけらの無駄もない意味
鍛え抜かれた身体
8月の熱射
外科医のメス


ぼくらは沈黙しなければ
ぼくらは目をつむって耳をふさいで沈黙しなければ
ぼくらは空高く舞い上がって、そこで沈黙しなければ
虚空の中を漂い、震えるような雨の雫を待たなければ

あなたを解釈する者を射殺しろ
あなたを理解する者を射殺しろ
あなたを遮って横断する国道を射殺しろ
小さな海を殺した犯人を射殺しろ

ぼくらはあなたを解釈しない
あなたを理解しない
空高く舞い上がってじっと震える
じっと沈黙する
ぼくらの沈黙は意味という意味を打ち砕く
膨大な沈黙の力で国道をへし折る

ぼくは海岸線を歩いて帰ってくる

渡れ!この海を
渡れ!この空を
渡れ!骨よ、静かな骨よ!
渡れ!悲惨よ、大きな悲惨よ!

A点からB点まで歩いてみよ
A点からB点まで走ってみよ
A点からB点までジェット機で移動してみよ

やがてA点とB点は消失するだろう

A点とB点が消失するとき

あなたの静かな骨が浮かび上がる
あなたの大きな悲惨が蘇る


自由詩 海辺にて Copyright zitensha 2017-01-31 22:37:53
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