再生の日
ヒヤシンス
窓から覗いた二つの目が遠く潤んでいる。
心は情景に溶け込み白茶けた街はとても静かだ。
まるで初めて見るかのようなその街の光景はどこか異国の匂いがする。
灰皿の上では吸いさしの煙草が紫の煙を吐いている。
いつかの少年はいつしか一人の男になった。
そして嘆いた、もう子供ではないのだ。
部屋の乱雑さだけが男の味方だった。
窓をかすめるように一本の木が立っている。
幹は立派だが分かれる枝はどこか心細かい。
散るのを忘れた枯葉が幾枚かその枝にへばりついている。
夏の盛りに一枚引き抜いた緑の葉を男は愛読書の栞にした。
今、テーブルの上に重ねたままのその本は埃にまみれている。
栞はとうに枯れてその存在がページに染み込んでいるだろう。
価値が価値でなくなる時、不安だけが男の肩にのしかかるのだ。
二つの目は街を見下ろしまた、遠く広がる海を見ていた。
いつかの航海に胸は高鳴り、鼓動が早くなる。
あきらめかけた夢を見ていた。
黒い壁に統一された街並みに行く手を阻まれても怖くはなかった。
俺はもう一度航海する必要がある。
太陽までが黒い日に男は決断した。
自分を精一杯生きてやる。
煙草は灰になった。
枯葉もいつかは散るだろう。
それでもこの世は生きる価値がある。
その中で自身の価値を見つければいい。
絶望を風化させないようにと潤んだ二つの目は、
いつしか自身の内面に向けられ、新たな道標となった。
白茶けた街に始まりの鐘が鳴り響いた。