鮟鱇の独白
……とある蛙
座敷の鍋の中から窓越しに雲が見える。雲に隠れた月がぼんやりと
少し前の地震で己が実を揺すられ、少し味が出汁に溶け出したかもしれない。
食欲満々の座敷の客たちは鍋の火加減を気にしている。
解体前の姿を見せてやりたいものだが、店の軒先に飾られているもののさほど目立たない。
海底に潜んで食い物を窺っていた時、このような事態を誰が想像していたのだろうか。
俺を食らう奴なんか俺の海にはそんなにいるものではない。
底曳き網漁船の気配さえ注意していればグルメな俺は一生食いたいものを食って眠りたい時に眠り,
暑くも無い寒くも無い俺の海で暮らして行くはずだった。
たまには鴎だって喰らうさ。
ところが一本の釣り針がキラリと光った瞬間俺は口の端に釣り針を引っかけられ妙に明るい海上へ引きずり出された。
その晩始めて月を見た。それは妙にくっきりとした水母だった。
月に見下ろされて俺はホロホロと涙が出た。
俺は親の顔も兄弟の顔も知らないのにこんなところへ引きずり出され
水を無理やり飲まされて、ぬるりとした体はバラバラにされた。
たっぷりある肝も取り出され、舌なめずりした親父たちの胃袋に放り込まれる。
こんなことがずいぶん昔から行われてきたと
仲間から遠い昔に聞いたことがある。
人という妖怪変化がいなければ
こんなに仲間が減ることもなかったろうに
一度気を失ってからずっと
俺は俺のされることを天井の上から
あるいは体の淵からずっと見ている
何ともやりきれない気分だが、
人にすべてしゃぶりつくされたころ
きっと真上にある光の中に消えてゆくんだろうよ
それは俺が頭につるしている提灯とは違って
ずいぶん明るい光でしかもどこから発せられているか見当がつかないが、