心拍
うみこ
ビルの虹彩にはアスピリンが打たれている
遠く銀の向こうで揺らめく
日差しの強い午後
近影は霞まずそこにある
街は熱を持ち伸縮を続ける
群れた家々の隙間で
赤い血液は想いを爆せる
道路標識の下に染みを作り
存在を思い知らせている
入れ違いに造られた体や
アパートの一室の違和感が
突発的に溢れだす
雪に濡れたアスファルトの上に立つ人の
アキレス腱は隣あって
似た者同士顔を見合わせる
その脈動は、靴底で静かに熱を冷ましてゆく
現代の心拍が空と街の間に表示されている
それは地平線のように真っ直ぐ死んでおらず
いびつで複雑な波形を示し、
夕暮れに現れる赤褐色の雨にいきなり恋をしたりして、
度々波形を乱し、赤切れのような小さな痛みを、嵐のような激しさで拭ったりする
僕らは小さな家で
その強風に耐えている
板張りの壁の隙間から入る風に
壁掛けが鳴る
激しく、重く、荘厳たる鼓動に恐怖し、
木の葉のように転がらないように、みをこごめ、震え、眠れぬ夜を過ごす
作為のない連動が、ゆりかごのように、何もかもを、揺らしている