白い沈黙/のために
末下りょう



足跡は雪にさらわれ 残されたのは 爪さき立つ



奪われたのはまなざしのゆくえ
なにも照らせない光が
ひしめいている

(今日わたしができることは思い出すことをやめること)
雪道を歩いていたのは少女
スクリーンをみつめて背をむける鏡像の似像
聞かれることを待つものすべてに
白は白に深まり
雪そのものにさらわれていく雪景色

手のなかで扱うべきシャベルは
雪をしらない冷たさにとかされて
消えかけたものの白熱をあらわにする

雪原にはなにかが出入りできるような窓はもうない
(そして眠ってはいけない
雪のふりをした蛇に消化されてしまうから
それはかつて象をのみ込んだ)

キャプティブ
パズルの
赤い傘は 、
凧かもしれなかった

色ちがいのスケート靴
それともあれはトリック?
トリックかギミックか
ギミックはいらない

(永遠に捨てられ
永遠に忘れ去られる
血をわけたすべての絆が)

犬たちの白息に曇る 国道沿いの観覧車
低い電線は短絡され
走り去るトラック
泥よけの潔白 、
神殿のようなリアシートからきえた
夜の王女のアリア
カッサンドラ
わたしと会ってはいけない
わたしと会わない人生を送って(欲しい

赤いドレスの女と
赤い口紅の女
あらかじめ用意された空席に
座った女
笑いをこらえられない男

キャプチャー
除雪機
誰も歩いていない雪道


トロフィー 、
ティカップ
乳歯
ヘアブラシ
ビニールの風車
誰かにとってそれが知っているなにかに似ているという寂しさ

(この部屋から始めよう
いくら話しかけてもあなたはいないから
わたしを迎えにきて
喜んで出ていくから)

雪だったはずのものたちの羽毛をむしる

空白は深まり
透明につみかさなる工程にさらされて
凍えた


止め処もない迂回と放心のさなかに
雪崩に絞りこまれて尖る眸を
待つように
その足はすぐそばで激しくさがしている
きみを


自由詩 白い沈黙/のために Copyright 末下りょう 2017-01-25 01:54:46
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