夜の水
為平 澪

夜、蛇口からボトボトと鉄板をたたく音がして 怖くて締める
私の内で溢れ出る苛立ちや不安、
皿を洗った後の 油や洗剤を含んだ水は
どこまで汚され どこに流れて行ったのだろう

じゃがいもの皮は 三角ポストに寝静まって
にんじんは 赤黒く収まって
茶袋は まだ温いまま膨れ上がって濡れている

それらが まだ遠くにない隅にあるという 小さな安心感を匂わせながら
私が洗って流した水は 予想もできない場所に行き
変わり、捩じり、くねり、曲り、踊り狂いながら
どの蛇口からひねり出された水であったのか、覚えていられないほど
汚水と混合して、また濁水にまみれ、汚染水と呼ばれ、色が臭う

夜、蛇口を強くねじ動かす指があったこと
それから私はあらゆるものに触れ、モノを洗い流し、
自分が汚れ続けれるほどに
仄明るく 透明に澄んでいたことなど 今更、知る術もなく
だだ、押流されるままに 辿り着いた夜の果て、女の、熟れの果て

ボトボトと鉄板を打ち叩く 私の澄み切っていた苛立ち、
三角ポストのモノたち全て 水で浄め浸し、そして薄汚れ、
その横側を、ただ通過していかなければならない私を見る、
濁った眼をした、女の群れ

排水溝では裁かれない叫びが 今夜も台所からあふれ出て
誰にもすくえない 赤黒い夜を
今、自分の手で 終わらせる


自由詩 夜の水 Copyright 為平 澪 2017-01-20 21:36:38
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