ひとつ 海辺
木立 悟
透明な砂地の樹が倒れ
枝が根に
根が枝になり埋もれている
影が打ち寄せ 去ってゆく
空の名札が剥がれ
旋りながら落ちてきて
やっと捕らえることができても
暗く見えない文字ばかり
かたちの異なる足跡が
影の歩みの後につづき
暮れの風のなか
藍に蒼にまたたいている
おやすみ と
何度言っても伝わらぬまま
夜は来てしまう
眠らぬものにふちどられて
手のひらのくぼみ
星の層
触れられぬほど熱い鎖骨
鬣のような氷の霧
指に付いた音の埃を
震えと共に呑み干して
逆さの透明を奏でながら
影は小さく海をなぞる