創作童話詩
水菜

「おとうさん、わたし、お話かいたの」
きらきらした目をして、澪は、大好きなおとうさんへ、書き溜めたお話の束を両手いっぱいに持ち走り込んできました。

にこりと笑むと、薄い眼鏡の下の目をやわらかく細めた男性が、澪を受け止めると膝の上に乗せ、

「ほう、それは父さん楽しみだな」

とくつくつと笑いました。

「では、これからね!」

澪は、一つ目のお話をいそいそと広げました。


       *****

『梳いた』

蜜色の路地を抜けると、一つ目の鬼が一枚の大きな岩の上に座り込んでいた
よく見ると瞼を閉じてしまっている
彼は瞑想をしているのだ
鬼は、虹色をしていた
赤い月が眩しい
鬼が私に
「嬢ちゃん、髪を梳かすことを手伝ってくれないか」

鬼の髪は、ごわごわしていそうだ
そんなことをしたくは無かったが鬼が怖かった私はこくんと頷いた
鬼は満足そうに私の手を掴む
ちりちりとした電気が鬼の手から流れ込んできた
そうっと鬼の髪に触れると触れたところから、いくつも子鬼たちが飛び出してくる

「おわぁ、おわぁ、おわぁ」
土砂降りの雨
赤い月が浮かぶ空に雨雲が掛かる
しだれた山茶花の花が鬼の虹色の身体によく映えています
濃い薄紅色の花びらがちらちらと辺りを染めて
鬼の髪を梳くと鬼が泣き出すのです
透明な泪は、ひっきりなしに流れて、地面に生えていた紅い芥子の花を茶色くしおらせ始めました
「お母ちゃんお母ちゃん泣かないで」
鬼の固い髪に居た子鬼達がわぁわぁと叫び始めました
困惑した私は、手を止めようとするけれど
鬼は許してくれません
ちりちりした電気は、そのうち耐え難いものになって私は鬼から手を放してしまいました
鬼は、おわぁおわぁと泣きながら虹色に発光し始めました
子鬼たちは、私の服の裾を掴んでびーびー泣いています
虹色の鬼は、そうして消えてしまいました。
鬼の下にあった紅い芥子の花は一輪残らず枯れてしまい、灰になってしまいました
後に残されたのは、薄紅の山茶花の花だけです
炎を雨が残らず持っていってくれました
子鬼たちは山茶花の花にまみれていつの間にか消えてしまいました
空がさあっと明るくなって
美しい景色の中に
一つ残された大きな一枚岩
その上に山茶花の木がさわさわと風に吹かれてありました
私はへなへなとその場に座り込んでしまいました

         *****

『梨の木』

ほーぶはべりーととんべってなかろ

べっしはべろりととろかろ

みつかはへらんでかなしかろ

とろんでしか 。

みやこはへらんでとろりとせんよ

みかはへんじをできんとおったよ

くちはきけんでなにもさけべぬ

とろりはろっきでみつやはえったよ

おけにほろべ

びっこをひいては啼いて

みつやはへっきでとろんでおったよ

おとうはめいたを

ころして

つめたよ



           *****


『蜘蛛の子』

ちりちりばらばら蜘蛛の子散らし

孵ったばかりのこどもたち

かあさんご飯にして大人になるまでゆりかごの中

脱皮してから糸と毒出来上がったら

空へ飛び出し

美しい銀糸の糸を

一人前に作れるよに

なるにはまだまだ先のこと

*****

  『蛙』

滑り(ぬめり)とした肌
透き通る水面(みなも)睡蓮の葉の上で
可愛らしいおぼこ見つめている
わすれているのね
きょうだいよ
ころころした子供たち
尾っぽがまだ生えている
真摯に見つめて
母なる大地に包まれてあなたも産まれた
この場所で
母さんはお星になったわ
星空のあそこに
後ろ足をのばして

とぶ

水面がはじけて

緑の大地で息づく命

舌をのばして

一つ消えた




        


           *****

『やわあかな』


やわあかな あたたかな そんなてざわりの わたあめぐも がありました

わたあめぐもは ままの おなかで ごろごろ あまえて いました

ままは とても おおきくて あたたかで だいすきでした

あらあら甘えて甘えん坊
お外で遊んできなさいな
温かなお日様のしたでじゆうに浮かんできなさいな

ままのおなかがだいすきでねむくてむりです ごめんなさい
あっちのおそとではかいじゅうが
こっちのおそとではかいぶつが
おめめひからせおこっているのです

濡れた瞳でわたあめぐもがぎゅぎゅっとままのおなかにからだをおしつけました

はるのあたたかな日差しのようにままがにこりとわらいました

それならいっしょにおさんぽしましょ
いっしょにならんでまずはあっちのおそとへいきましょね

あたたかなおひさまのしたでふわふわうかんでいたら
いつのまにかわたあめぐもはひとりでうかんでもへいきになっていました
ちかくにままがいることをしせんをかんじてしっていて
ふわふわあんしんして
ぐるりといっかいてんまでしました


        *****


『指』

ある日、指がなかったもんだからわたし驚愕してして慌てて指先を振ったの先っぽがちいさな痒みを持っているのに指がないのよ指がないの唖然として昨日を振り返ってみたわわたし記憶喪失記憶がないのどこにどこにわたしの指いっちゃったのかしら悔しくて悔しくて涙が滲んだわたしの指



身体ばらばら崩れかけたの知ってるかい声を潜めて顔しかめて驚愕したの隠さずに目を見開いて言う男手元には短くなった煙草あ。指が焼けそう少し爪先が割れてる荒れた手くっきりとしたしわを眉間に寄せて男は言い募るぴくりと鼻先がひくついた驚愕したなんてもんじゃないさと顔を赤黒くして言い募るもんだから血圧の心配思わずして心臓が弱いって聞いたばかりなもんだからさ
男は尚も続けたね奇怪な事件身体が持ち主嫌がって逃げたんじゃないのと関心なく笑うそんな馬鹿げた話に付き合うほど暇じゃないふいと目を反らした車の窓の外なんだありゃあと目を疑ったね耳のない猫が歩いてやがる



身体注意警報が発令された身体が逃げ出さないよう見張るようにとの一番多いのが明け方らしい主が夢の中なのを良いことに身体が歩き回るのさ遊び過ぎて戻り損ねた身体の一部が戻って来れなくなったってことらしい馬鹿馬鹿しいが目で見てしまった以上信じない訳にはいかないよ顔真っ青にして毎夜睡眠不足さたまったもんじゃない



身体は傷つけちゃいけないよ
赤い線を身体によくひくのはつらい気持ちのうらがえしかもしれないが身体は口をきかないけれどありゃあ痛い痛い言ってんのさだから大事にしてやらないけないよ
じゃないといつか身体が愛想尽かして逃げちまうなんてことにもなりかねない悪いことは言わないさ自分の大事な身体大切にしなねお願いだ。


闇夜に震えてる小さな塊
それは後悔に身を強ばらせていて

闇夜に浮かぶ星が笑う

暗い気持ちで夜の繁華街を知らない仲間と身をよせあって歩いた

途中野良犬野良猫に襲われるなんて日常茶飯事僕らは既に生きることに絶望してる

仲間の一人がふと口にした

謝りたいなんてぼそりとさ

捨てられてた新聞を目にしたんだ

悲しい顔して帰りを待ってる姿がそこには写ってた

気が変わったのは偶然で

決して寂しかったわけじゃない

可哀想になっただけなんだ

戻ってやっても良いかなんて久方ぶりに笑いあって

そっと帰路についた

並んで行列つくっていたから怖くはなかった

ぼくは一番最後でそっと主人の枕元に身を寄せた

主人の身体は傷だらけで頬には涙の跡がついてる

そう僕は指だから傷つけるのが嫌になった

ぼんやり青く照らされる月の光に浮かぶ主人の頬を見てる

目を見開いた彼女がおかえりなさいと口にした

         *****

 『泡』

泡を吹いているよ。

ぶわぶわぶわぶわ
透明ないくつもの泡がそこにはありました。

わたしは、そこで赤い指をした少女にシャボン液を渡してあげたので少女は嬉しそうに笑って幾つものシャボン玉を作っては飛ばしていました。

ぱちんぱちんと幾つもの泡が弾けてふわふわ消えていきました。

少女はわたしが作った架空の子だったのでその少女もすぐにその場からぱちんぱちんと弾けて消えました。
きぃきぃと無人のブランコが揺れています。

少し前にはそこに透明な少年がつまらない顔をしながらブランコで遊んでいたのですが、わたしの架空の遊びが終わる頃には泡が弾けるように消えてしまいました。

きぃきぃとブランコだけが揺れています。

小さな犬がわたしの足元に擦り寄って来たのですがそれもどうせ泡のように消えてしまうのです。それは架空の存在なのですから。

ぱちんぱちんと犬は弾けて泡のように消えました。

いつからこの公園にわたしは閉じ込められているのでしょう。

気が付いたらここに居て気が付いたら全てが架空のものでした。

しかし淋しくはないのです。

ぱちんぱちんと消える泡は、望んだ時に望んだ形で前に現れるのです。
そもそも感情をどこかに置いてきたようでどうにも感覚が鈍いのです。
感覚全てが夢の中のようでひどく実感が薄いのです。
**

でもこの頃様子が変なのです。

今までぱちんぱちんとすぐに消えてくれるはずの架空の存在が少しずつわたしに近づいてくるようになりました。

透明な少年は、顔を見上げるようになりましたし、赤い指の少女は時折寂しい顔をするようになりました。
擦り寄ってくる犬は近寄らなくなりました。

泡になるまでの感覚が日を追うごとに短くなっていきます。

それに比例してわたしは感情を取り戻していくかのようでした。

皮肉なことにわたしはそのせいで泡になることになったのでした。

ぱちんぱちんと少しずつ身体が消えていきます。

**

目が覚めた時わたしはぼんやりと辺りを見渡しました。


            *****

   『麦』

麦の穂の上で走っている夢を見たんだが
私は何故か人ではなく白兎になっていた
其処は普通の世界ではなくて
麦が植わっているのは熱い湯気が沸く温泉の上
其処に足を浸からせているのは昔見た姿のままの疎遠になっていた幼馴染
ぼうっと寒々と凍る雪景色を眺めて寒くないのか白い面で身じろぎもせず其処に居る
氷の雨が降るから気をつけた方が良いとそれが言うものだから長い耳を押さえて気をつけると
降ってきたのは尖った氷

岩場に突き刺さってはかすめてカキンと折れる

いつごろこっちに来たんだいと白兎のまま尋ねると
それはなにごとかぼんやりつぶやいたきりまた無言になってしまった

麦の穂の上を走ろうと持ちかけたのは幼馴染の方だ

白兎の私をひょいと持ち上げるとやすやすと麦の上に立ちそこから眩暈のするような雪景色を眺めた

広大な麦畑の上を走りきった時には私は独りになっていて
それがたまらなく悲しくて兎だから涙が出ないと変な解釈をしながらも周りに八つ当たりをした



          *****


    『時の境目』

突き当たりにあるのは、時の境目に違いなかった。
僕は、初めて世界を知った気分で、貪欲に辺りを飽きもせず見回った。

虹色の橋の下には、霞を口にするトキがいて、羽根を一枚一枚抜きとっていた。

まるで、こんなもの不要だとでもいうかのように、あっさりとそれは捨てられていた。

不燃物をあきらめたようにおきはなした足元には、湿りきって役に立たないマッチの箱が未使用のまま投げだされている。

僕は、ここにきた誰もがそうしたように、それらを空気のように眺め、そこに、新たな不燃物をおきはなした。

不燃物は、動きだすことはなく、僕は、それを当たり前に理解していた。

不燃物として、そこにすわりこんだ僕は、不燃物になりきっているだろう見知らぬ男に話し掛けた。

男は、タバコの煙りを吐き出しながら、物憂げな表情で、すべてを放棄したかのようだった。

霞を食べては、羽根を抜き取るトキを見つめながら、男は、空っぽだからと口にした。

不燃物になった彼等は、放棄して、期待することを忘れた。

わざと羽根を抜き、霞を食べている。

時の境目で、僕は、貪欲にそれを求めた。



       *****


   『朝』


なあ と 鳴く しまぶち猫丸。

さくばん かなしい ふり。

あさ ふる あめ 音に 消えてった。

なあ。

なにごとも なく。

過ぎ。

さくばん かなしい ふり。

動かない 鳴かない しまぶち猫丸。

なあ。

なにごとも なく。

落ち。

あめ ふる なあ なく。

かなしくも ある。

かなしい なあ なく。

朝 つめたい こごえたか。 なあ。

あめ ふる なく。 朝 ふる なく。

こごえたか。 なあ。

さくばん かなしい ふり。

なあ。 なかない。 朝 ふる 雨。

雨。降る、朝、こごえたか。なあ。

雲が千切れたところを見ていたか。

なあ。最後に。 なあ と 鳴き 伝えりゃ良かった なあ。

雲が千切れたところは見たか。

空は青かった だろうか。 なあ。

なあ。

 


      *****




  『雪道』
かじかむ手足を縮こませながら、雪に足をのめり込ませながら、つんのめり
空瓢箪に酒を貰いに
お父に褒められたくて
吹雪の夜に見た幻想
美しお化けの千佳子ちゃん
じぃっと凍った池を見つめてた
ちかちゃんちかちゃんどうしたの?
声をかけて訪ねたら、
美しお化けの千佳子ちゃん
白い指でそっと示して
そこに一面鯉の花
赤白黒と散りばめて
咲いたように凍ってた
口を開けたま
ひれのばし
優雅に泳ぐそのままで
凍ったそのまま夢のよう
白い面に大きな眼 黒目がちのその瞳 涙をためて
綺麗ねといった私を少し軽蔑した目
からんころんと空瓢箪
白い風がびゅうと吹いて
千佳子ちゃん赤い唇 白い面
どこからともなくお囃子が
ぴーひょろぴーひょろぴーひょろろ
ぎゅぎゅっと唇ひと噛みして
踏み潰した白無垢を
そのままお池に投げ捨てて
ちかちゃんそのまま蹲り
ぴーひょろぴーひょろお囃子は
そのまま消えて行きました
気づいたときには私独り
空瓢箪に
空の池
狐の嫁入り





       *****



  『フラワー』


ちゃんとしなさいよ
ぐずぐずする小さな頭を寄せて
青りんごの香り
最近ちいのお気に入りの、色付きリップの香り

アヒルのフランソワが、噴水のあたりをうろうろしていた
きちんとじっとしていないと、食べられちゃうんだから!しらない。

地図を広げる

「えっと、とんがり公園から…溜池のある白澤の家の近くまで」
フランソワは、クワっといい、私を嘴でくわえた

フラワーフラワーフラワー アヒル

アヒルは軽快なリズムと共に踊りだした

白澤は、不登校児だった。
普段は真面目な子なのだが、頭に血が上るとなにを起こすか解らない

「ちいちゃんは心配性だからな」

白澤の口癖の様な言葉だ

ちゃんとしなさいよ 白澤

ちいは、むくれた顔をする

あんたんせいで、私がつまらない

アヒルのフランソワに連れられないと、今日が雨だったことも知らなかったわ

フラワーフラワーフラワーアヒル

真っ赤な夕日が影を長くする




       *****


  『イルミネーション』


芯まで冷え切っているのは、振り払って薄着で出てきたせいであって、心が冷えているからでは無い筈だった
白い湯気に木綿が浸って
裸足の足が木目を滑り、ぽつねんと転がっている白足袋を赤い爪先で手繰って
身体が、凍ってしまえば良いと
ぼんやり剥き出しの柱に傾けて後れ毛が首元に掛かる
赤い月夜は白い白粉に縁取られて恥ずかしそうね
真面目な黒髪後ろ手で編みこんで
落とし込むのは私の心で
消えていくのは濁った魂で
ふわふわ漂うのは、ちかちかひかるイルミネーション
水滴がつめたい氷に変わっていくように

握った手は、この手のひらの半分の大きさで
雪のように白い魂
安っぽいイルミネーションのひかり

無音の世界でしんしんと降り積もる雪は
閉じようと働きかけている



       *****



   『白』

『酒を浸した髪に鱗粉を零したのは茜色の湖 近付いてきたのは紅の蝶 白い鱗粉を蒔いては 薄い羽を広げて飛びかかってきたのは白魚
刃を掲げたのは白い鬼  赤い旗を掲げたのは幸久で 首を引きずるのは光島 蒼く染まった水に浮かぶ幾つもの白魚は波に洗われてバシャバシャと音を立てる 洞穴の奥で火を焚くのは高原 赤く染まった首筋は骨まで見えている 銀狐の衣を纏い口元は赤く染まっている白鬼 首を洗っているのは甲信 目の下は赤黒く膨れ上がっている 陰鬱とした空気があたりを覆い尽くしている
「戦況は…」
「はっ、3000もの白狐の軍勢が…こちらに向かっております…」
足を折ったのだろうか 引きちぎれたように曲がった足を引きずり伝えた使者に
白鬼はぐぅっと呻き声を上げた

闇を白く染め上げる何千もの鳥が空から降りてきたのはその時だった
口元を赤く染め上げ白狐の首を咥えた白い鳥がバサリとそこに降り立ったのは

震えて声も出ない白鬼の前で、怒りを顕にした白い鳥が恫喝する
「私の庭で殺し合いをするとは何事だ お前の首も貰っていくぞ」
一瞬で白鬼の首は飛び、そこは混乱で染まった

天の国では白い酒が泉から溢れ、透明な羽を転がす若い妖精が薄桃の薬湯を下界へと振り撒き始めていた
薄絹を引きずり眉を顰めるのは水がなければ生きられぬ白魚』

薄っぺらな物語を書き出していた指を止めて美紅は、ぼーっと窓の外を見下ろす
薄化粧された町並み
歩く人影はなく、街は静まり返っている

キィエー

という声がしたかと思うと街は火の海に染まっていた
美紅が作り出した物語がそこには繰り広げられている

繰り返しの物語

美紅は窓の下を見下ろしながら思う

この後、何千もの白い鳥が降り立って…

「私の庭で殺し合いをするとは何事だ お前の首も貰っていくぞ」

ぱっと散った火花

後に残されたのは薄化粧された町並み

 


      *****




  『格子の海』


張り巡らした格子の中に海が広がっている
がたんがたんと戸を揺らすのは、人魚だった
閉じ込められた人魚はただただ外へ出たいともがく
年月を忘れてしまった
気が遠くなるほど長く
白くなった髪は、月の光に照らされて、鈍く光る
三月に一度タンカーが近くを通る
何度となく叫んでも
気付くことはなく
忘れ去れたように
格子の海にうずくまっている




       *****
 


  『街』



埃まみれの倉庫の隅に置き去りにされたくすんだサントゥール 誰も手入れをしないから埃まみれ 手入れをしていた人はもういないの
灰色の空 太陽はまだ厚い雲に隠されていて 眠ったままの信号はいつまでもちかちかと点滅をしてる
霧に覆われた街は、ひんやりと冷たくて、探す人影 置き去りにされた街 取り残されて
何度も瞬きをしては空を見上げるふりをする いつの間にか太陽は死んでしまった
止まったままの車には、空いた穴と罅割れが目立っていて
逆方向に走り出した時は、過去しか示そうとはしないから
過去ばかりそこには溢れている
探している面影を追いかけながらいつまでも忘れ去られた街を眺めて
一点を見つめたまま動かないセミロングの少女 重そうなタブク
それは誰って座り込んだのです
あの人はもういないの




       *****
 


  『林檎の匂い』



僕の目の前に、林檎はあります。
僕は、その甘えて腐ってしまったような腐臭を嗅ぎます。
僕は、その林檎を、あまやかし過ぎてしまったから。
僕は、その林檎が、可愛くって、切なくって、そうして、とても、やるせなかったから。
僕は、その林檎を、捧げもちます。
甘えた腐臭をこぼした、その林檎は、まるで、僕に甘えているようで、
僕は、思わず困った顔をするのです。
その甘えて腐ってしまった僕の可愛い林檎に見せつけるように。
嗚呼、僕の林檎は、転げてしまった。
あの切ない夢の奥へ。
ねえ、お願いだ、僕の林檎を、踏み潰してしまわないで。
ねえ、お願いだ、僕の可愛い林檎を僕に返してくれないか。
僕の林檎は、とても可愛くって、僕の林檎は、とても切ない。
夢の奥で、僕の可愛い林檎を持ち去ったあの娘は、僕に向かって印象的な瞳でツンと見つめた
ビロードが揺れる
緑の木陰のむこうで
湖で美味しそうに水を啄んでいる白い鳥
嘴を上に傾けて
白いスラリとした喉元が美しい
僕の林檎は、あの夢の奥へ消えてしまった。




       *****



 『かたつばみ』



カタツバミ、あたし、カタバミ。
カタバミ、あたし、ツバメ。
カタツバミ、あたし、カタコト。
カタバミ、あたし、ケムシ。
カタツバミ、あたし、カタバミ。
カタバミ、あたし、人間の女の子。
カタツバミ、あたし、カタバミ。

トルトリトルトリ
トルトリトルトリ

カタツバミ、あたし、カタバミ。
赤い実をとばそ。
お空の向こうに。

トルトリトルトリ
トルトリトルトリ

カタツバミ、あたし、カタバミ。
虫が無視したら、あたし、コウゲキ。
カタツバミ、あたし、カタバミ。
赤い実で、コウゲキ。

トルトリトルトリ
トルトリトルトリ

赤い実で、コウゲキ。





       *****



  『太陽と黄色いお絵描き』



博愛主義と言えば聞こえが良いが、あなたは私を傷つける
それなら何故初めから関わらないで居てくれなかったのか
雲の隙間から気まぐれで糸を垂らしたお釈迦様のように
糸を伸ばすも切るも気まぐれ次第

雲に隠れた太陽は、黄色い色をしている
黄色い太陽まるごと思い出にして
閉じ込めてしまえば

それは初めから無かったことになるでしょう

黄色く塗りつぶした夢の中のキャンバスで
何もかも塗りつぶして無かったことにしてしまえ

その内塗りつぶしたことさえ、忘れてしまえるから




       *****



   『突き抜けた白針』



透明な壁を破って突き抜けた白針は、
偶ゞその下を通り抜けた私の額に突き刺さり、小さな傷を付けた
すぅっと一本私の肌を傷付けた白針は、そのまま古びた板張りと煤けてすっかり煉瓦色に変色した絨毯の隙間にカタリと、入り込んでしまった
割れた時計の示していた時刻を私は知り得ない

古びた木造校舎の窓枠から外を見たのは
鼻を刺激するテッポウユリの香りに惹かれたからだった

よこむきに、凛と揺れるその姿は、私の肌をきずつけた白い秒針に少しにているような気がした
鼻を霧雨の匂いに、波の音

小さなこどもたちが、走り抜けていく
幻のそれは
私に小さな傷をみせつけていくようなじゅくじゅくした気持ちを刺激して




       *****



  『遊ぶ』



基準は、それぞれ自分なのだとしても、見えているものに対する受け止め方は、それぞれ違う
囚われているということは、それに守られているということでもあって
囚われている殻の内と外は、異質なものになっている
囚われている以上の苦しみを感じ取れる筈も無いのだから、いっそうその殻の中は、悲しみの牢になり得るもので
幾重にも幾重にも囚われている殻は、覆われ、続いていくものなのかもしれない
遊びの水で浸そう
囚われた殻の中に浸っているだろう羊水を苦しみの水で染めてしまわない内に
殻の中に溢れる羊水は、過去に浸ることに意識を向けさせる
その内、赤子に戻ってしまえとでも言うかのように
酷く血の腐臭が染み付いているかのような気がする
腐臭が染み付いたかのような手垢のついた死への憧れに
囚われている殻の中から見える世界は、歪みきり、汚れきり、手垢がべたべたと付いてひどく暗い
タールのようにべたついたそれらから臭う腐臭に、胸を病む思いがする
それらは増幅する
妬みや憎しみにべたついた苦しみは、呪となり辺りに染み込んでいく
ねっとりとした空気を感じ取り悪寒を感じる
幽鬼のようなそれらは、縋り付くように次々に殻に触れたものに憑依し、取り込むもしくは、破壊し、断絶させる
殻の周りは、潮の匂いで満ちている
潮騒が殻の周りを包み、一切の音を消す
微かに殻を破る音がする
殻の中から、仄白い女の手が伸びる
ふっくらとしたそれは、完璧な造作で石膏で作られた理想の女の手のよう
女の叫びが潮騒にかき消される
陰と陽が遊ぶ
苦しみから逃れたい一心で
幽鬼のような呪いを辺りに振りまきながら
女の叫びはまるで怒っているようにも泣いているようにも聞こえる
苦しみよりも悲しみが悲しみよりも苦しみが
よりいっそうの苦しみが
われ可愛さにわれ愛しさに
辺りに呪を振りまいて
呪うように遊ぶ
遊ぶ
潮騒に紛れて
 



       *****

 


 『ループ』




目一杯、人型の透明な器に、雪をつめる
何体も、並べて、毎日、話しかける
そのうち雪は、溶けてしまい
また、目一杯、人型の透明な器に、泥をつめる
何体も、並べて、毎日、話しかける
そのうち泥は流れてしまい
また……


 

        *****
 


 『お子様の椅子』

 


瑠璃色のシューズに、茜色のワンピース 濡れた瞳に揃いの茜色の口紅

あなた色。わたし色。

くるくる回った林檎の心。

あなた色。わたし色。

くるくる回った林檎の心。

青い血管 透ける 首筋 澄んだ抜けるような肌の色
ここにあるのは、お子様の椅子。

瑠璃色のシューズを、青い海に投げて
震えて流されてく

ふるさとの風

染まってくわたし。わたし色。

お子様の椅子。

わたし、茜色の空、燃え上がる海。

茜色のお子様の椅子。

わたし色。

きっと、そうありたかったの。

あなた色。わたし色。  





         *****




  『ほどき飴』
 



飴をころんところがしてほどき飴
くるくる笑う眠たい目
薄い灯の下湿った目じり
甘く含んで、せつなく消えた灯力なく落ちたオレンジの蝿
ぶつかり合う蝿
心の風邪をひきましょう
あなたの関心をひきたいから
心にも無い意地悪いいましょう
あなたの特別になりたいから
消えた灯
オレンジの蝿
ほどき飴





         *****




  『僕が豚になった日』



入れ替わり 家畜としての一生 bokugabutaninaltutahi

ブタ。

肥満者への蔑称として使われることが多いが、豚の体の大半は筋肉であって、脂肪ではない。一般的に肥満させて育てる食用ブタでも体脂肪率は14パーセント、多くても18パーセント程度にとどまる。ガツガツと食事を取る人物を指して「ブタのように食べる」、散らかり汚い部屋を「豚小屋」などと形容することがあるが、ブタの生命力が強いため荒れた飼育環境でも飼育できることや、容貌から来る偏見である。ブタは知能が高く(教え込めば芸も覚え、自分の名前も認知する)清潔を好む生物であり、ガツガツ食事をしたり、自分の居場所を汚くすることもない。排泄をする場所は餌場や寝床から離れた決まった一ヶ所に決める習性がある。ブタの知能はイヌと同等か、それ以上とする研究者もいる。犬は高い忠実性を持つが、事実上の知能ではブタの方が上であることが認識されている。類人猿、イルカ、ゾウ、カササギ、ヨウムに加えてブタも鏡の存在を認知できる。

僕が豚になった日

僕を豚にした僕の豚にした僕を豚にした僕に豚がした僕を豚がした僕へ豚をする。

豚。

僕は自由だった。草原で。寒くても平気だった。仲間が居たから。仲間?ああ、兄弟さ。
やさしいご飯をくれる俊三さんに擦り寄る 僕は俊三さんの匂いが好きだ。美味しそうな匂いがする 草の匂い ああ食べたい。

僕には歯が無い。まだ乳飲み子だった頃に、8っポンの歯を抜かれた。母さんの乳房や他の仲間を傷つけるからなんだって。僕は今でもあの道具を見ると震えあがっちゃう。ええと、ニッパーっていうんだ。

僕には、尾っぽも無い。だって齧りたくなるだろ?だからなんだって。

僕は去勢というのもされてる。しないと価値が下がるんだって。気絶したかもしれない。怖かったことだけ覚えている。

全て無麻酔。

僕は、助詞っていうの?どうも苦手なんだ。ぐちゃぐちゃになっちゃう!僕が僕の僕を僕に僕へ僕と僕から 僕から!

真っ赤な夕焼けが僕に迫ってくる。

引きこもり

はっと起き上がると僕は、僕でした。部屋。ああ、よかった。僕の部屋だ。きちんと勉強机がある、狭苦しい部屋。モノトーンで、何もない部屋。シミの無い白い天井を見て、僕は安堵する。ひどい夢を見てしまった。豚。僕が家畜になる夢!
恐ろしい夢だった。僕は暗い部屋に連れて行かれる。連れて行かれてそれで?

そろそろと起きだして、僕は鏡を探す。部屋に鏡、あったかしら。
無かったので、下に降りて、洗面台まで行き豚になった僕を見た。

豚。豚だ。豚である。豚。僕は豚だったのか?まさか!

恐る恐る口を開けてみる。歯が無い!つるりとしている。ピンク色のヒダ。

 あとはもう解かるだろ?僕は自室に逃げ込んだ。死にたい死にたい死にたい!

がらがらと、引出しを開ける。いくつもの錠剤が零れ落ちた。僕はそれらをいくつかつかむと勢いよく水で流し込む。

僕の頭がどうかしてしまったなんて考えたくない、いっそこのまま死んでしまったら!


豚。

僕は自由だった。草原で。寒くても平気だった。仲間が居たから。仲間?ああ、兄弟さ。
やさしいご飯をくれる俊三さんに擦り寄る 僕は俊三さんの匂いが好きだ。美味しそうな匂いがする 草の匂い ああ食べたい。

僕には歯が無い。まだ乳飲み子だった頃に、8っポンの歯を抜かれた。母さんの乳房や他の仲間を傷つけるからなんだって。僕は今でもあの道具を見ると震えあがっちゃう。ええと、ニッパーっていうんだ。

僕には、尾っぽも無い。だって齧りたくなるだろ?だからなんだって。

僕は去勢というのもされてる。しないと価値が下がるんだって。気絶したかもしれない。怖かったことだけ覚えている。

全て無麻酔。

僕は、助詞っていうの?どうも苦手なんだ。ぐちゃぐちゃになっちゃう!僕が僕の僕を僕に僕へ僕と僕から 僕から!

真っ赤な夕焼けが僕に迫ってくる。






         *****




  『泉』

滾々と湧き出す泉の真ん中に緒が切られたばかりの赤子がおりました。
嬰児を捧げるように空に上げてる母親は
少女のよに瑞々しくそれは12の頃でした
彼女を突き刺す長い槍は大人二人が手を広げても届かない見事な羽を広げたペガサスが泉の底から引き揚げたものでした
誤って少女を貫いてしまったペガサスはあまりの罪の意識に正気を失ってしまいました
透明なその槍を少女は粉々に噛み砕くと泉にきらきらと撒き散らしました
ガラスの破片のように鋭利なそれは、少女の足元に控えていた母親の目元と足裏を傷付けました

湧き出す泉の色は虹色で光景だけ見ればそこは桃源郷のようでした
泉を囲んで四季折々の花が鮮やかに咲き乱れ
薄紅色の桃の実が辺りに柔らかで酩酊するような香りを辺りに撒き散らしておりました

「おかあさん おかあさん」
ペガサスの羽を幼い指先で掴み
ゆらし

天を仰いでいる目には薄青い空間だけが広がっておりました







         *****
 




 『水滴』

トタッ トタッ トタッ
たっちゃんが目を覚ますと、水滴の音がしました
トタッ トタッ トタッ
ザバザバザバッ
ママが、帰って来たのかしら
たっちゃんは、そう思って耳を澄ましました
たっちゃんにとって、嬉しいことのはずのそれは
小さな温みで違っていたと知りました
猫のミミコが、たっちゃんのお布団に潜り込んできたからです
ミミコは、流しに足をとられて、濡れてしまったようでした
鍵っ子のたっちゃんが、お昼寝をしている頃だから
水に浸けていた、たっちゃんのお弁当箱にでも足をとられてしまったのかしら
ミミコが震えだしたものだから、たっちゃんは慌てて、ミミコを乾いたタオルで包みました
ミミコは、ありがとうと言ってくれているみたいに、たっちゃんの小さな手をざらざらの舌で舐めました
ミミコの身体から、水滴を拭き取ってしまうと、たっちゃんは、ミミコと一緒に眠ってしまいました
トタッ トタッ トタッ
たっちゃんが目を覚ましたとき、辺りはすっかり暗くなってしまっていました
すぐ傍でママが眠ってしまっていました
たっちゃんは、鍵っ子だけれど
ミミコが居るから、あんまりさびしくありません
水滴の音がしたら、ミミコが来てくれるからです





        *****



  『籠』


いつまでも太陽をみれずにいる
後れ毛をかきあげて細い指でピックをかき鳴らして
こぼれおちるのは
吐息とあかいめじり
格子張り巡らされて夢の中にきみ
雛鳥はなきやまずに

あかいかみさまはおほしのそのまたむこうにおります
白い袖を幾重にもたばねて顔を隠して雨
格子のむこうにきみ
白い袖
こぼれ







        *****





  『さなぎ』






いと、を、食み出していました、

箪笥の隙間から、白のすべらかな手、が

か、なしいと一度だけくち、びる うごいたように 見えました

もの いわぬ 口は 唇だけがとてもはげしく か、なしいと つたえて

目の奥に揺れた 想い、は すぐに 消えて




いつのまにか 溶けてしまって、 いた

ひっついて 留まっている




せいはんたい の






        *****





   『さなぎ」』



いつかのお話を致そうと思います。かれこれ、10数年前のことなので今ではもうがらんどうの空家になっておりますが、そこに清水さんというかわいらしい女の子が住んでおりました。私は、ひょんなことで彼女と親しくなり、毎日のように彼女と遊んでおりました。彼女は私のことをメイちゃんと親しげに呼んでおりましたが、私はいつまでも彼女のことを清水さんと呼んでおりました。
メイちゃんメイちゃんと、清水さんに私が呼ばれる度に、私は酷く不愉快になったものであります。ちゃん付けをいつまでも止めようとしない清水さんに対して嫌と言えなかった私が悪いのですが、私は嫌だということが出来ませんでした。清水さんに嫌われることそのものがとても怖かったのだと今振り返り思っております。彼女と私はとても気が合ったので、私たちは僅かなすれ違いを無視してしまえば、親友と言ってしまっても良い程でした。運動がどちらかというと苦手で、内向的な私とは違い、清水さんは、とても運動神経が良く、社交的で、私たちは全く正反対の性格や、ものの考え方をしておりました。それが逆に宜しかったのではないでしょうか。私たちはそれぞれの良さを内心認め合い、内心羨ましがっておりました。なにかというと慰め、励ましあっていましたが、それというのも、考え方が正反対の私たちの論争はとても互いにとって刺激があったからでもありました。私たちは互いを面白がり、互いの個性を唯一無二のものとして認めあっておりました。




いつしか清水さんと私と彼との関係はすれ違いが多くなり、私は、清水さんと彼を避けるようになってしまいました。

メイちゃんなんで避けるの、と何度彼女に問い詰められたことでしょうか、その度私は、彼女に対して傷つけるような対応を取ってばかりいたのです。

彼女の姿を眼にしなくなって少し彼女のことを気に掛け始めたころ、清水さんから連絡があり、夜中の3時ごろであったと思います。彼女が何も言わず泣き出してしまうので、不安になった私は、彼女の家に向かいました。彼女は、ぼんやりと庭の桜の木の辺りで木に寄りかかり何処か遠くを見ておりました。

「あたし、さなぎに、なりたいの」

清水さんは空虚な眼をしてひどく平坦な声でそう口に致しました。良く回らない頭で何故そんなものになりたいのか、彼女に尋ねても口を閉じたまま彼女はぼんやり空を眺めて身動ぎも致しません。

静かに泪を流している彼女の姿が酷く痛ましく思えて、私は、そっとその木に寄り掛かるとじっと俯いておりました。

そのまま清水さんは越してしまい私は彼女とは離れてしまいましたが、今でも時折思い出すのです。

「あたし、さなぎに、なりたいの」


さなぎ

 細い糸をつぅっと引き、するすると 女が降りてきました。 酷い火傷をした顔はとろりと溶けてしまって酷い有様です。天井から降りてきた女は、声が出せないようで、身振り手振りで何かを訴えようと致しますが、何を伝えたいのか全く理解出来ません。
何とも言えず嫌な気持ちになった女はさなぎのようなその女を半ば引き摺るようにして外へと出しましたが、女の細く白い糸は切れることなく細く細く伸びていきます。
いよいよ気味が悪くなった女は、女が消えた方向をじっと不安そうに振り返りながらも、床に付きました。
 ふと、眼が覚めた時例の女が天井にへばりついておりました。


さなぎ

 心許なくゆらゆら揺れてるさなぎ
私みたいで みるの 嫌で 捨てて







        *****





  『狂う』





くち、うご、いて、き、みィ、よ、ごし、た、
さ、い、て、つぶ、しィ、タ、

こどう、を、て、ノ、ヒぃら、で、しった、

ジー
 ジー
   ジー

白黒の画

沢山の目が映って、エい、?、り

圧を込めた、走らせた、ペン先は、自らの醜くナカミに、どす黒く染まってイり、イ

白い紙が部屋には散らばって、いる、清潔な、一室には、いろのない、オマエ

空間は、うごかない





        *****





  『氷』




ひんやりとした氷の塊を舌にのせて舐め溶かして感覚が無くなった舌先に針を刺していく

いっぽん
にほん
さんぼん
よんほん
ごほん
ろっぽん
ななほん
はっぽん
きゅうほん
じゅっぽん

じゅっ じっ じっぽん じっぽん じっぽん

舌が回らない ね

妙な手をした 顔がみえない ○○○ あ、 ○○○さん ね と にこやかに口にした

白衣を着ている ○○○ さん

私はこの人を知っている

震える手で そう と 針に 触れる


○○○ さん 駄目駄目 もう少し 我慢して

 と ○○○ さんが 、

治療 ちりょうちゅう なの 、 と

氷 、 足しましょうか たしましょうか 。 と

いいえ 、 もう じゅうぶんです 、と

あれ 、わたしは

わたしは だれでしょうか

鏡に映る 顔 、みおぼえが ない ひと

こ、 お、  り

い、 いたい いたい いたい 、と

ああ、駄目駄目 痛みを与えては 思い出してしまうよ

こまった顔をした ○○○ さん が 白衣を翻して

やはり 、氷 、足しましょうか ね と

いいえ、 もう、 あなたは 誰 ですか と

いたみは もう おもいだせません から

もう じゅうぶん じゅうぶん と







        *****






 
 『サン』




改善の為に喉を焼き骨に油を誘う皇かな肌に泥を張り針の筵に足を伸ばそう
悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ悲しみ

指の後ろに隠れた小さな刃物にサンは顔を歪め小さな叫びを上げる

一、悲鳴

サンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶ

二、娘

踊りながら娘が飛び出し車に轢かれる サンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶサンは叫ぶ

轢いた男は車を捨てて半狂乱になる





オー、



オー、


オー、


サンは叫ぶ


 




       *****





   『ガラス』






一.男は転げている

ガラスを抱えた男が指先でそれを弄びながら暴れている
彼は幻覚を目にしていて見えないそれに怯えている

二.ワニは叫んでいる

人食いワニが男の傍に寄り興味深げに男を見つめている
いつ食らいつこうかと機会を待っている

三.ガラスが割れている

辺りに散らばり粉々になったガラスがそこに広がっている

男は初めからワニに食われてやる気など無かった
じゃりじゃりと散らばったガラスに足を取られないようにしながらもワニから後退し始める
男は幻覚を見ることも暴れることも忘れワニから逃れようと後退を続ける

幻覚が現実となり男の目の前に迫っている

男 ワニ ガラス ワニ ワニ ワニ 幻覚 現実 割れるガラス

妄想妄想妄想妄想妄想妄想妄想妄想

男の現実は幻覚と結び付いた

男はワニになりワニは男になっている

そのうち男はガラスになり

そこに転げ割れて散らばるガラスの欠片になるだろう

四.細切れ 記憶 細切れ
男の細切れの記憶は男がガラスの欠片であるそこから始まる


やがてガラスの欠片はそこに広がる灼熱のマグマに溶けてうっとりするような液体になるだろう

男はやがて幻覚を見て暴れることを止めた

割れたガラスはそこに散らばっている







      *****






 『アリサ』






想像したのは、白い少女の袂 美しい羽のようなやわらかな裾
指先からやわらかなレースへとつながっているかのようなかろやかにたなびく風
白い少女は、そこに座り込み、美しく喉をならす
命の恵みの湧き水は、仄白く月明かりに照らされて冷たい岩肌に寄り添うように
風が、彼女を包み込み、二分する
白く分かれた彼女は、泉に滑り込み
生身の彼女は、空を見上げて
星占いは、点の連なり
涙は、風との決別
白い嵐は、彼女の肌を荒らし、孤独に誘い込むけれど
彼女は、性別を変え、性質を変えて
くるくる回る運命の歯車は
いつもいつも、惑わせようとする
その度、白い花は、震えるように時を忘れ
人を裏切っては、自らの思うさま孤独へとひた走る
何も残っていないことが、それこそ思うさま
宝珠のように
優しく胸に押し抱いて、満たされて、涙する
月の光は、思うさま真っ先にひとすじ白い花を照らすけれど
震える花は、凍えて光にも気づかない
分かたれた道は、それこそ、幾万もあれど
白い花の道は、そこで途切れて
ちぎれて絶える
風に紛れて
凍えた花を照らす光







      *****

 



 『クッキー』





「美味しい?」
ぱりぽりぱり
「美味しいよ。どうもありがとう。もう1枚くれないか?」
サクッ
「美味しい?」
パリッ
「勿論。とても美味しいよ」
「…」
「良かった」

 




     *****





 
  『白すぎる花』





蜃気楼の中_
足だけが見えていた
ずっと、前をあるく足だけが見えていた
                       ●



・・・・・・・・・
点が

壊れた脳みそは、点だけを見つめている
残像のように、時折、頭の端に映像が流れる


・・
  ・


点だ

「姉さん、」


・ ・ ・
    ・
 点だ

あの時姉さんは、きっとはしゃいでいた 初めて乗った三輪車に、夢中になっていたね




赤い三輪車

「ゆれているブランコの上に乗っているのは、白すぎる花」

・ ・ ・
    ・

点だ

「姉さん、」








      *****
  




 『詩を書くことを止めます。』




詩を書くことを止めます。
詩は、読む方が面白い。
きっと、読む方が、美しい。
きっと、私は、その方が満足するのです
 






     *****



 『雪人形』




明日死にますと永遠綴った言葉
帰ってきたのは、怒りの言葉
雪人形

ついっと、ひやりとした心地の背中あわそ

雪人形

あんたのその涙声はかざりかえ

つめたく首にまわった指先が
溶けて消える雪人形

あんた、死にたいんかえ

雪人形

唇に口よせられて、吸われた魂 言霊の

うずのよにまく 風と

あたし

あんた、死にたいんかえ
あんたのその涙声は、かざりかえ

雪に風と
覆われて

明日死にますと永遠綴った言葉
帰ってきたのは、怒りの背中

言霊を









      *****

 




 『震撼』





まるで止まらない大きなドラム式洗濯機の中
間違っているなんて言わないで!
私、壊れてしまう
渋い赤ワインと、ベビーリーフの上に切ったトマトをのせてサラダ
ドレッシングなんて要らない 私、涙が出るほどつかれてるの
目を閉じれば眠れそうな瞼の下 隠れてるしなければならない闘争
私、こういうやり方しかしらないの 私、瞼を追って
酸味のある爽やかな林檎をください
瞼の下に閉じこめた

 





     *****





  『完敗』




何もかも完敗
苦しさを通り越して、ひどく空虚だ
私の見たかった宇宙は、まだまだ途中だったのに
途中までで、見ることは、お仕舞い
これからは、違う道を見つめましょうって
そんなに簡単に、見つかるかしら
見つからなければ干上がるだけ
でも、どうかこれだけは約束して下さい
あなたは、簡単に、それを捨ててしまえるけれど
そうしてしまわないで
私がこんなに手を伸ばしても伸ばしても掴めなかったものを
あなたは、簡単に、捨ててしまわないで
宝物のように扱うと誓って下さい
目を閉じて、お願いごと
さざ波の音が聞こえる








       *****





  『コンソメスープとポタージュとホッとパイ』





rarararara
popopo
あっつあつのホットパイ 中のシチューがあちゃー
popopo
コンソメスープとポタージュ 濃厚
popopo
お外は白い悪魔が踊ってる
rurupopopon
雪ダルマんを作ったら、お鼻に人参 お目目に真っ黒ぼたん!お帽子私の手編みです
rarara
雪ダルマん溶けないで
窓からそっと覗いてる
傾いた君、写真に写した


 





      *****







  『嘘とホントウ』

空中ブランコ、綱渡り、ライオンの火くぐりに、一輪車
それを一気にこなします。
motherは、火が怖かったのに、今ではそんな姿をみせたりしない。
ふらふらしている綱渡りはあぶなっかしくてみてられない!
Johnnyは、いつの間にか綱渡りのスペシャリストになってたわ。向いていたのかしら。
空中ブランコのAnneとginとっても息があってるの。光の環を掴んだときはまるで一体化しているみたいで。
一輪車乗りのLeonは、見習いで。
見習いLeonはへたっぴで。
それでも技を毎日練習してる。
ロープの上をよろよろしてて、擦り傷いっぱいつくってる。
ピエロ姿で踊ってる。
ここは嘘とホントウのサーカス団。
震える指でぬぐってはしらないふりして笑ってる。君はとっても悪い子ね。
みえない部分は内緒でよいの。
しらないふりしてくるってまわってこんにちは。
嘘とホントウ。








       *****








『アクセス』

ぼく・・・
私・・・・
(どうして?)

しろ
ほし
いた

錆びた手すり
わたし

プール
とびこみ
白い足首
(ね、?)
細い
白い
テキスト
そして、アクセス
分断して










*****







   『あかり』

きみは、あかりとりになろうとしているんだね?
むねのしたから、そとへと、まきあげる、イメージ
きみは、そらに、うきあがっている
かぜとともに、飛翔
まるで、にくぶとんに、抱かれているように、ひとはだの感触につつまれている
ときをたたくのは、のどをからしさけぶ、海鳥
きみは、こまかい結晶になって
あのころ思いえがいた夢は
きみの水面にあるよ
海鳥
はじかれた水滴は
鮮やかなうみのあおに染まる
うきあがり、飛べ
明日からきみは
ちいさなひだまりのあかりたちを
きっととびきりのえがおにしつづけるだろうね

どこまでも上へ











       *****








  『annna』

「アンナは、つま先立ちして、あの箱を取っただけなんだよ」
ドンドンドンドンゴンゴン
ゴルゴンゾーラはフックベリーをこうしごってクラウンベリーをとぉいった

フランクフルトにシャーベットが舞った時
クラウンベリーは自動車整備工場で働いてた
オイルの匂いに酔いしれながらそのうち訪ねてくるあの娘の帽子を思い浮かべてた
あの娘は決して顔を見せない
そばかすが散るあの娘

クラウンベリーをゴルゴンゾーラは嫌いだったがゴルゴンゾーラの素早く動く手が好きだった
オイルの匂いには辟易していたが
彼の声も嫌いじゃなかった

「アンナは、つま先立ちして、あの箱を取っただけなんだよ」
フランクフルトにクラウンベリーが降り続いた夜に
アンナを待ってゴルゴンゾーラは悲しい顔をしている
クラウンベリーは悲しくなってオイルの匂いのする手で彼女の泪を拭ったけれど
かさかさの手が彼女の肌に触れるのを躊躇ってクラウンベリーは直ぐに手を隠してしまった


 





      *****






  『雨玉』




雨をちいさな玉状にして空から降らせてる神様は
誰かのことを想っていました

だからとっても小さな玉を沢山沢山降らせては誰かが想い出してくれるようにと空の上から眺めていました

*

からくりじかけのコローニャはいつものお靴を履きましてちびのオカンに会いに行くのです。
昨夜は綺麗な星たちの合間にオカンの合図の流星がコローニャ帰ってきんしゃいと叫んでおりました。
泪がぽろぽろ流れぬ内に。

*

白いレースを翻し新種の殿様バッタが沢山沢山飛び跳ねる広い原っぱの上で。

季節外れの蛍の大群の群れに足を取られながらも。

*

tumetaikazeがぼろりと吹いて。

*


 
 




      *****





  『親指の爪を剥いだ、』




朱い舌を這わせているのは愛猫の
緑の瞳の奥で震えているのは小さな妖精
否悪魔かもしれない
昨夜作ったクリームしちゅうの上に死刑台をつくったから
きっと反逆に来たんだわ、
白い塔に閉じ込められているレッサーパンダを
きっとイカヅチで魔法使いのコウノトリに変えないといけないから
私忙しいの

*

oyayubinotume
をティッシュにくるんで
朱く染めた死刑台の上に飾ったの

舌にはクリームしちゅうの風見鶏がふらふらゆれてるから
別段問題はないわ。

親指の爪を剥いだ、



 



      *****





  『て が み』

カッターできっていたら 、間違って 、指 切ってしまったんです

血が にじんでしまうから 、やだなぁ 、って思って 、

でも すごく愛おしく感じたから 、

それをそのままにして

真っ赤に染まった指で 作業を続けたんです 、


カッターは紅くなってしまうし 、良いことなんて 何もないのに

私 、必要だなっておもっていたから

気にしなかったんです

手紙 だから それで良いかな、って思っていたから

しろやぎさんには 内緒に しようと思います 。


 






       *****
  







  『風邪』

夏風邪をひいてしまいました

風鈴を風が揺らします

浴衣の裾をカランと蹴り上げて飛び込んで来たのはあの娘

さらりとした風が仲直りの言の葉を運んでくれました

ごめん ごめん と 風が口ずさみます

風に後押しされた気がして

「   」

と言葉にしたら

風邪のせいで声が出なくて

夏風邪が仲直りの風を運んでくれた様でした







 



       *****
 
 




『褒められたい』

君は、そう言って笑った
泣き笑いの顔
寂しそうな顔
誰かに認められたいなんてずっと心の奥に燻っていた思いをもどかしい気持ちを
言いたくて堪らないんだ

冷たいね
透明な泪が君の肌を温めてる

雨に濡れてる君の全身を包み込んでる小さな手は君を慕っているんだよ

冷たく凍えた君の身体を必死に温めようとしている

その小さな手に

君は小さな罪悪感を感じている

そんなんじゃないんだって

そんなんじゃないんだって


遠くの方で燻っている小さな炎の塊を

もどかしい気持ちで眺めてる

罪はいつか消えるのかしら
君はどこかで踏み留めなかったの

叫び声が消える






        *****
 






 『はりつめる』

はりつめているかのようだ
わたしはずっとそこにたちつくして
なにかをきたいしていたのだ

すりきれた肌は至るところにわたしを落としていく

ばらばらになった心の塊をのみこんでくれたのはだれであるのかとか

この硬いどうしようもないはりつめたいとをほぐしてくれたのはだれであるのかとか

そんなことはどうでも良いことであるのだ

わたしは小さな赤い塊をそっと地面に落としていく

はだしの足は泥濘でよごれ
のめりこんでいる

ばらばらとなってしまった分身達がいくつもいくつも駆け上っていくのを呆然と立ち尽くし見ているのだ








        *****
 






 『ゆら』
ゆらるゆらるゆらり
細い指したあの娘の手いつしか合う物作りましょかと

銀細工を磨いて

るあるりららり

こわい海に飛び込んで闇に喰われたあの娘の心

いつしかとりもどさせようと

願いを込めて

ぐらりぐらりくらり

ふらりふらりらり

呼んでいるのはあの娘でしょか

寂しく笑うあの娘でしょか

ふわるふわるふわりふわり

ふわるふわるふわりふわる

ふわるふわるふわりふわる







        *****

 





 『声』

あなたはもう声を出せない

小さな紅色の花びらを唇の周りに散らして付けたの
閉じた瞼の向こう側に透けて見えた光が
ちらちら赤く燃えたように見えたの
大事に閉じ込めていた少女がドアをノックして外に出よう出ようとしているの
少しそれは大事なことで少しそれをあなたは気にしているの
あなたはその子の母だから

あなたはもう声を出せない

道はいくつも開いているように見えているのに
いつもあなたの前に何かが塞がっているのね
それに足を取られているのに
あなたはそれに平気なふりをしているの
ふるふるとゆれる唇の周りに付いた花弁はいくつもいくつも重なって
いつの間にかあなたの唇は塞がっているの

何処かのお家で綺麗に洗濯されたせっけんの香りのする沢山の白い洗濯物
石鹸の香りに包まれて

子供の頃に遊んだシャボン玉
ふわりふわりと浮かんでは音もなく消えていった

そのうちそれは消えると思うの
それは一瞬の幻のようなものだから

唇が塞がってしまっているから
あなたは声が出せない

今にも雨が降りそうね
しとしと雨になる前に







しとしと雨がふる前に


 




       *****
 




『魅せる為の』




媚びを売ってるあらゆるものが許せなくて
時々壊してしまいたくなる。

あれもこれもそれもそう。

跳ね返したい。

赤い目をした兎が発狂した。

彼は、あおい海に飛び込んだ。

忘れたかったのかもしれない。

自分が飼い慣らされた兎だった事実を。

あおにのみこまれた










        *****
  

 



 『沈む 赤』





22:03(白い女の爪の先が見えた気がしたのだ、私の目の端に飛び込んできたその一瞬の出来事を私は一生忘れることは無いだろう)


声ならぬ
繊細なつまりは飛翔(ぴしゃりと音がして、女が深い碧の水面に飛び込んだ、それは白魚が暗い水面に飛び込もうとしている姿の様だった)


諦めや

指先愛で
敏感な線繊細な頬表現出来ずに思い悩む
表現出来ぬことへの苛立ちよ


碧の水面潜って
出てこ/ならぬ
薄紅梅の唇 鴇色の頬
樺茶色の瞳
動きや/ならぬ


つまりは、赤

ふざけたことによ

愛でようとして居るのかや

その先行ってはならぬ(もう音がしない水面を旅館の2階の窓から見つめては私はなんとも言えない苦々しさを感じる)
諦めや


 





       *****






  『悔恨』




蜜色の花そっと焼ききって吐息で曇った薄い硝子に指を這わせて
氷を握って固まってしまったかのような指先に血がいかなくなってしまえば良いとぎゅっと圧迫して
昨夜開いたままのページは今もそのまま私のなか棲み付いてしまって
鱗が剥がれた熱帯魚が青いお腹を逸らして昨日に生きていて
時折泡に揉まれて揺り動かされて
いる



ふと
見えてきたものは過去棲み付いてきたものばかりで
声はいつまでも届かないままで
一定の間隔でゆうらりゆらりと揺れて居れば良いので
時折ゆだんした飼い馴らしの喉元がびくりびくりと痙攣ばかりしているので
目を逸らすことが出来ないので
いる



ふと
留まったものばかりが反乱を起こそうと奮起することも
絶望しきることも
渇望することも
いる


昨日に生きていて
切り込みをいれて
薄く破いて
水に溶かすようにして



一枚一枚位置を確認しては
焼きとっては
いる


泡が自然と発生す
ゆらゆらと揺らす


 





       *****





  『浮き草』




あなたわたしきみぼくあなた、
音、

雨が君の肩を濡らして

コンココンコン

こうして言えば良かったのよ

あなたに伝える必要は無かったの

私の気持ちさえ消化出来ればそれで良かったの

そうすれば誰も傷付かない
そうすれば誰も気付かない
気付けない


浮き草は、雨に打たれて
歌を歌って

コンココンコン コンココンコン

コンココンコン







        *****
 



 『匂い』




 ミルクの匂いがする
赤ちゃんの匂い

ケーキの匂いがする
一日ケーキ焼いてたんだもの
膨らまなくてかたいからなんども繰り返し

雨が降っているのね
雨の匂いがする

窓を開けているから

手を触れてみたら手から甘いかおりがした

ほら良いから出てきなさい

ちいさなお手手ひいて

一緒にケーキを食べよう

苺は嫌いだからあげる

にゃーお

声が聞こえた

何も聞こえなかった

ミルクの匂いがする
赤ちゃんの匂い

ケーキは要らないよ

小さな子猫が飛び出してざらざらの舌で手をぺろりとなめました

洗い上がりのシャンプーの香り

ため息ついてそっと抱えて

ケーキはお預け
いたずらっ子を置いて

猫砂と猫用のミルク準備して








        *****
  





『羽虫』  





過ちを犯してしまったのです
オイルランプがぼんやりと照らすのはあの日の思い出

ぼんやりとした瞳の少年が湖の淵に座り込んでおります
手負いの少年は歩く気力を失っておりました
ひんやりと湿ったくうきに疲れ切った身体をふるりと震わせて
少年はぼんやり感覚を失った指をみつめておりました

祖父から貰った古びたランプの光はぼんやり古びた写真を照らします
笑う少年と照れくさそうに笑う老人

あそこから転げ落ちたのでございます
点々としたたる血の後に続く羽虫は
少年の周りをぐるりと覆い
妙に生温かい晩のこと

胸がむかむか し内臓すべてがどろりと外へ出そうなそんな夜のこと
外の方へ飛んでいった羽虫がわたしの目に留まりました
きらきらしておりましてなんともかなしい風景でした
あそこで足をすべせたのは其処に罠が仕掛けてあったからでございます
小柄な若い雄じかがヒューヒューとくるしげに訴えておりました
点々としたたる血の後の続く羽虫は
雄じかの周りをぐるりと囲い
覆っておりました
妙に生温かい夜のこと
雄じかはそっと羽虫に何かを伝えたかのようでした
ふわりと舞った羽虫の大群は
ふわりふわりと空を舞い上へ上へとのぼっていきました
雲がひとつも無い晩のこと
ほの白く照らされる羽虫の大群は
上へ上へとのぼっていきました

倉庫の片隅に眠っていた古びたオイルランプを照らしたくなったのは
妙に今日があの日に似ていたからでございます

そっとランプを照らしたところ
小さな羽虫の大群がランプの周りへ寄ってまいりました

しゅーしゅーしゅー
羽虫は大量に集まってまいります
何処からか鹿の鳴き声がした気が致しました

ぼんやり照らされたほの明るい光の中で羽虫が舞っておりました
     



    *****









   『白百合ノ花』




白い肢体をなげだして
赤く腫れた足先を水にひたして

あかくもえた空
なにもかも持っていった

白百合の花が敷き詰められた其処は
遠い記憶の夢の其処

自らを映し出す姿見を見るかのように
額と額を寄せては笑い
白い薄絹震わせて
手元を滑った白百合の花

あなた泣いていました

結んだ指先あの日の約束
蛹が蝶にかえる頃には
私はもう其処には居ないよと

頬杖付いて顔を隠したあなたにみられないようにと

冷たい水に浸したあしさき

まるで血をながしているようで

あなたを捜してつめたくなったの

わたし泣いて

あの日のあなたに会いに来ました

白百合の花が敷き詰められた其処は
遠い記憶の夢の其処

わたし泣いて







         *****
  





『ふあん』




仕方がないのです
眠れなくて薬を一瓶飲みました

意識を失いくるまで運ばれました
ふあんでふあんで仕方がないのです
助けて下さい
だれか助けて下さい

なぜですかなぜですか
これをのまなければならないとそう信じております
依存などしておりません

遺書を書きました
黄泉の国の彼の人が私を迎えに来てくれるようにと
手が震えて蚯蚓が紙の上をのたくりました
瓶の中のお薬がばらばらとこぼれて
泪が紙を濡らします

くるしいのですくるしいのです
ふあんに食い尽くされそうです
貪り食われてしまいそうです
私を背負い奔走して下さった方がおりました
震える手を握り温めて下さった方がおりました
孤独に私が食われてしまわぬようにと
泣いて下さった方がおりました

墨を含んだ筆で
紙に初めて私の心を綴りました

心は文字に言葉は文字に心は文字に言葉は文字に
蚯蚓は自由に紙の上を這い
私は蚯蚓に心を託して
心を託して
私の弱さを引きずり出したようでした
朝の光にすかした紙のその上で
ふあんが踊っておりました
蚯蚓が踊っておりました


私は鳥になりたい
自由に空を羽ばたきたい

巣食った心は暗闇で
其処に棲むのは飛べない蚯蚓

私は鳥になりたい



 



        *****

 




 『クラッカー』





ばっか ばっか ばっかばっかばっかばっかばっか
みたい


ばっかばっかばっかばっかばっかばっか
みたい


潰れたクラッカー

潰したクラッカー

クラッカーで潰したのはクルミ

コンビナートに落っこちたサナダを笑いながら見ていたら

足元に沈んでたトンビに足を掬われて

結局は僕もくるみみたいになるところだった

らしくて

らしいから

スクラップになったおんぼろトラックに

潰されたクルミを投げつけた


らしいから

 





       *****
 





『真っ白なトーテムポール』





真っ白なトーテンポール。
翼を広げたトーテンポール。
色付けする前に、置いていかれたのか。
ぽつんと、草はらの墓地にたちんぼしている。
少し離れた所に、カラフルなトーテンポール。
強い日差しと抜けるような青空の下、生き生きと輝いている。
口を開けていたり閉じていたり、目を見開いていたり。
そのまま青空に飛び出していきそうな格好のものまで。
高く高く、天まで届きますように。

真っ赤な夕日に染まるトーテンポール。
物悲しいトーテンポール。
笑った顔が、泣き笑い。
トーテンポール。
やっぱりお空に手を伸ばして。
翼を広げている。
トーテンポール。

白い月夜に青く浮き上がるトーテンポール。
清廉な空気を放つトーテンポール。
閉じた目は、何を見ていますか。
トーテンポール。

翼を広げたトーテンポール。
鳥たちが羽を休めるトーテンポール。
いつもいつもカラフルに笑っている。
真っ白なトーテンポール。
 






       *****

 




 『What time do you usually get up? 』




私はいつも五時に起きます。
何故なら、寝坊をするといつも大変なことが起きてしまうからです。
いつだったでしょう。

ある日私は自分の中の約束事を破って朝寝坊をしてしまいました。

すると、朝起きたとき私は、大きなイタチになってしまっていました。

毛で覆われたつやつやな毛皮。

私は一日欝になって過ごしました。

私はいつも五時に起きます。








      *****






 『lace』





①クロッシュレース
かぎ針で丁寧に糸を編み込んでいく
しゅるするしゅ
細い糸の束がふるふると震える
宝石の様に広がる作られた模様
擦れた指先は何度も失敗した結果汚れていて
汗で上手く滑ってはくれない
不意に思い出した言葉に手先が震えて

くるくるくるっと
レースと一緒に震える思考
私、今きっと此処にはいないわ

外では冷たい雨が降っていて
私の足は氷の様に冷え切っている
赤く染まった指先に
細い糸が繋がって
誰かが私を操っているみたい

感覚が無いの

ぴゅうううって

びぃいいいんって

引っ張られるわ

苦しい

ほらまた私其処にはいない

*

遊ぶ遊ぶ遊ぶ
クロッシュレース

つま先立ちしてくるくる回って
びぃいいいんと引っ張られたら

くるっとお辞儀

お天道様が上から悪いこと見張っているけれど
悪戯には見向きもしてくれないわ

こんにちはこんにちはこんにちはおはよう

いつの間にかあの沼の横の木の根でつま先を抉いて痛いような気がしているけれど
ぽかりとあいた空間が大きすぎてそんなもの気にならない

*

お天道様こんにちはおはよう
私、ここの綻び見つけました

お天道様こんにちはおはよう
お願いお願い私の声を聞いてください

お天道様こんにちはおはよう
きっとお天道様は下手くそなのね

宝石の様な糸の模様が時折綻んでいるもの

*

ほら私其処にはいない

時折呼ばれる小さな声に

*循環①に戻って

こんにちはおはよう









      *****

 






 『夢見る人参』






部屋を開けるとむっとした匂い
声をかけると奥から布の塊がもぞもぞと動く
床には、様々なものが部屋の主人から見捨てられて散らばっている
綺麗好きな人間なら思わず悲鳴を上げて、部屋から逃げ出しそうだ
私は、そんな部屋の状態を見ても、あの奥にある塊……人物が、実は見栄っ張りで、見栄張りの為に部屋を綺麗に出来るのだと知っている
汚い部屋を見せても平気な人間が一握りだとも知っている
この部屋の汚さは同時にこの人物の心の深部が、今、極限まで病んでいることを意味していた
彼を、仮に、夢見る人参としよう
彼は、今、病んでいる
奥から、アメリカンショートヘアの緑が、飛び出してきた。エメラルドグリーンの瞳がお腹が空いたと訴えてくる
夢見る人参は、もぞもぞと布団から手を出すと、袋に入ったままのキャットフードを指さした
という詩を書いても良いかな?
人参が入ったままの塊が数回頷いたように動いた







      *****






『動物詩』





ハイエナ
乾燥した大地に転がるハイエナは、不思議な光景を目にしていた
空が赤いのだ
そしてとても目が痛い 頭に響く痛みに苦しみながらも
ハイエナは昨日の出来事を思い返していた
いつものように食事を禿鷹を追い払って食しながら
その日ハイエナは空から肉の塊が降ってくる光景を目にした
べたべたとしたそれらは、ハイエナを嫌な気持ちにさせた
あれからとても身体の調子がおかしい
その出来事は一瞬で
気が付いたら今日になっていて
空は赤く
目が痛んだ
そのうち目が利かないことに気が付いた
空が赤くなったのではなく
自分の目が赤く染まっているのだ
乾燥した大地をよろよろと踏みしめると
いくつもの何かにあたった
匂いでそれが何か生き物だったことは解ったが
それ以上は解らなかった
何か妙な臭いが辺りを覆いつくし
不吉な予感が広がっていた

白兎
有象無象の中の更にミジンコみたいな(ミジンコに失礼)矮小な存在
其れに拘ってしまう矮小な自分を確認し
こんな秘境の地で更にせせこましい問題をごちゃごちゃしていて
それが妄想で馬鹿であり非生産的であってもどうしようもないのだ

白兎は言う
水鏡を見ながら

青大将
先日、青大将に会った。
23列の鱗と腹板の突起を見せびらかしながら木に登っていた。
彼の住み心地の良さそうな塒は、丁度良い窪地具合で目も黒い円らで可愛らしい顔をしている。
真夜中に彼は、月に白く照らされながらするするすると木を伝っていた。
九死に一生を得たネズミの体験談である。



多様な表現方法が許されている場だと勘違いしたことが始まりで、それから変な方向へ亀裂が入ってしまいましたが
と、蛙は前置きした上で、泪ながらに訴えたのだが
其処に居たもの達は蛙の醜い外観と意地の悪い性質を敏感に感じ取り
冷たい視線を投げかけるだけだった


モグラ
不平等ですと叫ぶモグラは唯一利く鼻で嘘を暴くことに長けていたのだが
生憎目が利かなかった為に誰が嘘を言っているのかを特定することが難しかった。

ティラノザウルス
ティラノザウルスの赤ちゃんがその日9匹生まれる運命にあったのだが
不幸にも母親に卵を踏みつけられてしまい8匹になった筈だった。
それなのに、翌朝母親の元には9匹の赤ん坊が生まれていた。


優しさの代償として豚は手足を切断された
憎しみの代償として豚はその手足を自ら食さなければならなかった
悲しみの代償として豚は仲間を見送ることしか出来なかった


カナリア
洞窟の中に連れてこられたカナリアは不吉な臭いを感じる度に歌ったが
その日カナリアはガスの臭いに先にやられてしまい鳴くことが出来なかった
カナリアの代わりに泣いた少年は動かなくなったカナリアを抱きしめた

 







    *****






「ねぇ、おとうさん、どれがよかった……?」

澪は、薄い色の瞳で見上げてきます。その目には少しだけの不安と、ちょっぴり自信が有りげな光が交互に表れているようでした。

「ふむ」

にこりと笑むと、ぽんぽんと澪の頭をかるく撫ぜると

「まだまだだな」

と。

澪は、頬を膨らませました。


自由詩 創作童話詩 Copyright 水菜 2017-01-20 00:34:31
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