南風
ゼロハチ

思い出すこともあるでしょうか

大潮の日に月の海
舟に乗って漕ぎ出した

星の光は小さく

私もまた小さかった


からだの中にはたくさんの

ひみつのことば

こなごなに壊れてしまっても

いつかはまた
ひとりの心で歩きだせるように


きっと、いいことがあるよと


風のなかに時々まじる声は

嵐のあとの静かな午後に
雷が落ちた海のなかに

匂い立つ雨の跡に

手のひらで溶けていく雪の結晶に
散ってしまった花のなかに

晴れてしまった
悲しい日に

私が
なにかを、思い出す日に



波がうねる
光る魚がはねていく

眼差しは北極星が指すよりも遠くに


命はすぐに燃え尽きてしまう

朝が来るよりももっとはやく


私は考える

舟は南風を知っているのだ

朝やけの空に震えている


心は少し、誰かを思い出しながら




自由詩 南風 Copyright ゼロハチ 2017-01-19 13:49:39
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