もののあはれ
末松 努

あのひとが脱皮するのを見た

鮮やか
に細く磨き上げた手
の甲
の上を走るふくよか
な血管
に見惚れた
美しさ
が屈託なく笑う声
に蹴散らされ
刹那
するり
と剥けた

生きていればいい

慈母観音の笑み
を纏った柔らかい唇
を押しつけ
窒息
の快楽
を与えよう

受け入れよ
さもなくば
生きていられなくなる
と警告し
天上
から監視する

すべては残すことだけだ

遺した
生きてあること
の饒舌
なざわめきを
鎮め
乾き凍ること
を厭わず
仮死
に生き
渇望
の性交
を嘲笑うため
あらゆる化学物質
を被る

恥も外聞もなく食べ散らかして

生きる
とはなに
なに
があって
も継ぐこと
その下種
な下衆
の性交
をするため
の強さ
を反映
させて繁栄
するため

のあるかぎり

進化し
ほん
の少し
の汚れ
をつけるため

高貴の名付けた歴史という時間を種とともに保存する


自由詩 もののあはれ Copyright 末松 努 2017-01-15 18:39:42
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