かけるくんの空
深水遊脚

かけるくんは
呼ばれてもいつも返事をしない

返事だけではなく
一言も喋らない
いつの頃からだろう
皆がどんどん言葉を覚えて
いろいろ喋るようになって
かけるくんの言葉がないことに
気づいていったのかもしれない
かけるくんは変わらずに

今日のかけるくんは
カフェラテと仲良くしている
ここによく来る薄茶色の猫で
みんなはコーヒーよりも先に
この猫でその言葉を覚えた
カフェラテはかけるくんによくなついた
かけるくんもカフェラテに笑っていた
いろいろな笑いかたがみられるので
みんなカフェラテと一緒にいるかけるくんが好きだった

かけるくんはみんなが嫌いではなかった
みんなよりも空が好きで猫のカフェラテが好きで
それを隠すことを知らないだけだった
喋らないというだけで遊ぶことはみんなと一緒だった
誰かがいじめようとすることはよくある
でもほかの誰かがそれに乗らなかったり
ときにはかけるくんを庇ったりした
なによりかけるくんが敏感に察して
いつのまにかいなくなってしまっていた
かけるくんは言葉から自由だった



理恵先生の呼ぶ声にかけるくんが元気に

はい
と答えた

みんなびっくりした
その日以来かけるくんは人気者になった
言葉から自由になり
そのうえで自由に言葉を操れる人気者のかけるくん
空よりもみんなが好きになったけれど
空の色や雲のかたちのことを
だんだんと忘れていった
そしていつのまにか
カフェラテはもうここに来なくなった


自由詩 かけるくんの空 Copyright 深水遊脚 2017-01-15 08:27:54
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