INSPIRE
ただのみきや
ギター
雨をはじいて飛ぶ鳥のように
空気を震わせて濁らない
濡れた枝先の微かな光
抜糸された瞳へ飛び降りる
孵しそこねた夢の欠片から
うなじのほくろふたつ
振り向くことのない永遠が
月のような傷痕を生まれる前に遡らせる
爪弾く音
見送る軌跡
わたしたちが求めたものは終わらない楽曲
ではなく 満ち足りた死
沈黙へ還って往く
音
としての
波形を緩やかに
失いながら
こと切れた微笑みの残り香のように
ただ白紙の中にだけわたしたちは在って
沈黙から沈黙へ
巡り
ながら
奏でる風の断章
揺らぎとして
響き合い互いを呼び起こし
やがて花々が一斉に湧き立つ日
柘榴のような
狂いは目覚め
あなたは何と呼ぶだろう
言葉は目隠しをしたまま追いかけた
躓く石のない童話の街を
――唐突の不協和音
天然に曲がったナイフが
左目の裏側から滑り込んで抉るように
乖離させた
からだとこころ
理想と現実
自分と自分
あなたは何と呼ぶだろう
終わらないと思ったものが過ぎ去る時の
見交わす顔の空白を
思い起こそうとしてただ
鳥のように素早く
旋律は去る
朦朧とした
霧の森へ
消え
タ
・
音
・
ノ
荒地を
彷徨う影
弦のない
ギターはあの柴のよう
炎の歌を永続させる静けさの中に
欹てる者が靴を脱ぐ時
語る声は火の文字
去ることはない
去るのはただ
わたしたち
感覚の揺らぎとして
《INSPIRE:2017年1月14日》