死生観
水菜
我を持ち始めてから割とすぐに、死ぬまでの期限を自分で決めた私は、
目の前が、ひどい闇のようだった
果てのないトンネルの入口にひとりおいてけぼりにされたかのような焦り
はやく死ななくちゃ そう思いながら、年齢を重ねて
だから、死生観は、そうではなかった方々とはすこし違うのかもしれない
口に入れるものがひどく罪に思えたのも、我を持ち始めて割とすぐの頃からだった
私は、大したことも出来ない生き物だ、なのに何故、命を口にしているのだ
この口に入れた命たちは、私よりもずっと能力が高く、私よりもずっと純粋で、私よりもずっと生きていて良い生き物たちに違いないのに、私は、沢山の命を奪って命を繋げている
その事実がひどく罪に思えた
心が醜く汚れていく可能性がありそうな時ほど、自らを責めた
自虐によって、自分に罰を与えることで、なんとか罪を和らげようとしたのかもしれない
応急処置に過ぎなかったけれど、自らの心を汚したくなかったのは、私のちいさなそして、いちばん大切な願いだった
もうその決めていた期限も超えてしまった
超える瞬間の感情を今でもはっきり思い出すことが出来る
私は、まるで、老婆のようだった
老婆から、赤子になったような感覚というのか
精神というものは本当に不思議だ
不思議な感覚をときに体験させる
巻き戻された時計のなかで、まるごとなくなるという感覚は、弁舌にし難いものがある
それは、在ったのだが、
同時に、無かったことでもあった
後悔もなにもない
ただ、間違いなく在ったのだが、それは無いものでもあった
そういう事実があるだけだ
今私は、生きているし、
この口に入れた命たちは、私よりもずっと能力が高く、私よりもずっと純粋で、私よりもずっと生きていて良い生き物たちに違いないのに、私は、沢山の命を奪って命を繋げている
という事実もそこにある
精神とは
意識とは
罪に怯える意識とは
目には見えないもので
間違いなくそこに在るのだが、無いものでもある
それは空を掴むようなもので
それは、空そのものだ
だから、私の死生観は、【空くう】だ
そう思う