ひとつ 無言
木立 悟
ほどけて蜘蛛になる陽の前を
光の葉と穂がすぎてゆく
海に沈む
巨大な一文字
古い風はさらさらと崩れ
胸像の庭を埋めてゆく
誰かが居るようで居ない揺れ
家と家のはざまの影
冬の通りの案内人は
ついていけぬほど速く自転車を走らせ
やがて静物の森に消えてゆく
止まったままの街を残して
鉄の獣の港にも
雪はゆるりと降り積もり
白と黒の飛行船
曇の底を昇りゆく
映さぬことで映す鏡が
窓のかたちに押し黙り
無から無へとひとつずつ
水面の帆はひらかれる
雪の原につづく足跡
転がる陽の輪に向かい近づき
ふいに途切れ 暮れに浸され
凍えた蒼にまたたいている
空の光の空白が
川を蔽い 流れゆく
鉄の獣は歩みを止め
曇の底を見つめつづける