カーネーション リリー リリー ローズ
末下りょう



側面と奥行きを切り詰めた青い神経の
清潔な色彩の箱庭
消え入りそうに立て掛かる
淡い寓意の記憶
それはきみが好きだった世界の一つ

蜂蜜色のレンガを積んだ家々を背にすれば
いまもそれを少し上から見おろせる
村の職人たちは刈り終えた羊の毛を
日没までにその大きな屋敷に運び込み
周密に飾り立てた箱庭の切れ目は
夏の逃避のための折り目を呼びさます

縦に入る影に挿した 可憐な造花の戯れ
くびれる草葉は移り気にくるめき
風と風にはさまれた乙女たちはそっと艶をおびて
その前に立つものに見守られ
箱庭の構図は考え尽くされて消えていく


俯き向かい合う幼い顔や手
紙のランタンに照らされ 夕暮れ時の
花ざかりの庭に灯るもの

百合のようなからだはローズの香りをかぎながら
カーネーションをあなたたちに贈りあう

それはきみが好きだった世界の一つ




自由詩 カーネーション リリー リリー ローズ Copyright 末下りょう 2017-01-08 02:33:20
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