森のロンド
塔野夏子
燦 とひかりが降り
彼の中の森がめざめる
その肢体が
若枝であり
清流であり
薫風である彼の中の森が
その数多の瞳を
つぎつぎとひらいてゆく
きらめきをこぼしながら
鳥たちが飛びたつ
彼の中の森がにじみ出す
森のめざめに応えて
舞いはじめた彼の肢体から
樹々の葉たちは緑の音符
舞う彼の想いを奏でてゆく
樹々の間を縫うせせらぎも 風も
彼の記憶を 予感を
そのあわいから生まれる物語を
言葉のない歌で紡いでゆく
彼の中の森があふれ出す
燦 とひかりが走る
樹々の葉と せせらぎと 風と
たわむれからみあいながら
霧や虹の衣をまとい 交錯する透明な精霊たち……
ふいにひとしきり風が強まり
彼の中の森がほとばしる
樹々のざわめき 高まる瀬音
狂おしく舞う彼の肢体
――闇も 傷も
抱えたままでかまわない
そこから生まれいでたものが
やがて幾重にも枝を広げ
ひかりをいっぱいに受けとめるから
そしてまた風はやわらぎ
きらめきをこぼしながら
鳥たちが囀る
彼の物語の
はじまりつづけるはじまりと
終わりつづける終わりとが
いつしかうつくしい環になって
森のまわりを静かにめぐる