長靴
草野春心



  眼窩から此方側へ延びている廊下に沿い
  雨に濡れた数人の男たちがワツワツ歩いていく
  それほど速くもないしそれほど遅くもない
  私は三和土に置かれた長靴を先刻から見ている
  意識に粘着した虚しさの塊を見る時のように
  見るということの内部まで見る時のように
  或は解けていた歳月が褐色の光に浸され
  やがて糸球状に凝固していくのを
  見ている



自由詩 長靴 Copyright 草野春心 2017-01-07 22:14:41
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