冬という病
ただのみきや

      祈りと願いに摩耗した
己の偶像が神秘の面持ちを失くす頃
始めて冬の野へ迷い出た子猫は瞳を糸屑にして
柔らかくたわみながら落下する鳥を追った
薄く濁った空をゆっくりと
    螺旋は傾き
        きりきりと 
            届かない痛点へ

 波が波を打ち消す忘却の連鎖
   無垢な残酷さ


    ひとひらの炎があった
  伸縮を繰り返し
切れ端であり全体の
なにも燃やさず
 なににもよらず燃え続ける
   純粋な幻が
       現実とはその踊る影


         胸中に陽だまりと氷
         凍死した男そのままの

     書きとめる指先は氷点で壊疽したが
 歌は速かった
いつものように 
いつもより一層
持って往かれた
 時間よりも風に


巻き戻される季節の祭儀
一枚の絵から水が溢れ――
 貪る視線
 鏡に浮かんだ梢の先をつかみ損ね溺れて往く


 冬はあなたの美しい病


       白樺の根元に埋められた翡翠かわせみの死
       隠匿された夏 夢のまにまに問う
       日差しと影に縁取られた抽象の疼き


  あなたを羽化させる
  
 葬列を飾る風花は

   架空の唇に触れて溶ける冷やかな赤い贄に


――そうして自らの断面にすが入っているのを見る
          真の喪失とは気づかないもの




               《冬という病:2016年12月31日》











自由詩 冬という病 Copyright ただのみきや 2016-12-31 21:13:18縦
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