桂花醬
鵜飼千代子



金木犀の花を瓶に入れ ホワイトリカーを注ぐ
ひと月ほどして 香りも色も酒に移った頃
金木犀の花を引き上げる

その酒は 甘い香りをたぎらせ 口に含むとふくよかな広がりを持つものの まだ角のある若い味だ
時間が育ててくれるのをしばし待とう

焼酎漬けの花は変色せず
鮮やかなオレンジ色のままだった
捨ててしまうのは切なく淋しい

そうだ 蜜煮にしよう

グラニュー糖に金木犀のお酒を少し入れ 
熱してシロップを作る

すっかり砂糖が溶けたところに 焼酎漬けの金木犀の花を入れ
少し火にかけたら火を止め 自然に冷めるまで待つ
肉厚の花びらにほんのり甘味が入る
そのシロップに ほんのちょっぴり塩を入れる

そこんじょそこらのジャムじゃない
ジャムに塩は入れないもの


香りはあまり感じないが ひと匙すくい口に含むと
プチプチと金木犀の花が口の中で弾ける
いや、プチプチと噛みながら 舌の上で味わっている

桂花醬ケイファジャン
中国では塩漬けの金木犀の花を塩抜きし
蜜煮したものをそう呼ぶという

我家の蜜煮は 後から塩を少々
金木犀の花善哉ぜんざいになった




2016年12月28日
初出 うろこアンソロジー2016


自由詩 桂花醬 Copyright 鵜飼千代子 2016-12-31 18:26:51
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