底の記憶
ひだかたけし

土佐の海辺の村で
毎日毎夜薄暗い電灯の
野外畳の上にでんと座り
鍋に茹でられた貝という貝
爪楊枝でほじくり出して
それぞれに違う味覚
食い喰らい喰らい食い
瞑黙ひたすらに
味わい味わい
荒々しく律動する
天の潮騒の唸りヲ聴く
山葵醤油に涙自然溢れ流れ
水の色の透明となっていく己

透明己は
緑と内臓の
入り混じった
宙の香を満喫し
光の波頭の次々と
押し寄せる砕け散る
柔らか純白な宇ノ腹に
溺れ底に呑まれ呑み返す


自由詩 底の記憶 Copyright ひだかたけし 2016-12-19 00:39:38
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