渡つ海
高原漣

神無月に肉を脱ぎ捨て 祖母が逝った。

思えばもっと前から祖母は半分海を渡っていたようだった

精神ここにあらずといったふうで

ときどき正気のあるときは「死にたい」とこぼしていた

念願がかなったのか祖母は枯れ木のようになって逝った。

はじめは真夏の潮溜まりのようだったが やがて晩秋の海に似た温度になった

海を渡る人をつなぎとめるすべもなかった

どうしようもなく熱い潮が心から溢れ続けた

と思ったが すぐ干潮がきた。

浅瀬を渡って逝けただろうか

座り心地の良いところへ

すずめが次に鳴くときまで

どうか安寧を

孫より

追伸

来年の初盆には帰ってきてね


自由詩 渡つ海 Copyright 高原漣 2016-12-17 01:41:49
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