渡つ海
高原漣
神無月に肉を脱ぎ捨て 祖母が逝った。
思えばもっと前から祖母は半分海を渡っていたようだった
精神ここにあらずといったふうで
ときどき正気のあるときは「死にたい」とこぼしていた
念願がかなったのか祖母は枯れ木のようになって逝った。
はじめは真夏の潮溜まりのようだったが やがて晩秋の海に似た温度になった
海を渡る人をつなぎとめるすべもなかった
どうしようもなく熱い潮が心から溢れ続けた
と思ったが すぐ干潮がきた。
浅瀬を渡って逝けただろうか
座り心地の良いところへ
すずめが次に鳴くときまで
どうか安寧を
孫より
追伸
来年の初盆には帰ってきてね