夜の森
星丘涙

夜の森が叫ぶ
ひび割れた木々の枝が揺れ動き
足下のつるに躓いて倒れた
赤い月が昇る
コウモリの群れが羽ばたき月光にてらされる
よろめきながら足を進めると
しだいに深い闇が私を呑み込んで行く
生暖かい風が頬を撫で
まるでムンクが叫んでいるかの様な感覚の中
気を失いかける
私はいつこの森に彷徨い込んだのか
なんとなくここに憧れを抱いていた
そして何時かこの夜の森に足を踏み入れてみたかった
立ち入りを禁止されていたこの森
私の魂を深くねっとりと蝕んでゆく
時間の感覚はとっくに失ってしまった
神秘的かつ狂気に満ちている世界
笑いと雄叫びが響く中
悪霊たちが渦巻いているのが分かる
耳をふさぎながら出口を探すが
闇にさえぎられ方向感覚は失っている
妻の顔が脳裏を横切る
もう駄目なのかもしれないと 
泥の中に座り込み諦めかけ
恐怖と悲しさの中
気を失ってしまった




どれくらい時間がたったのだろう
小鳥のさえずりに目を覚ました
頬に朝露がしたたっている
朝日がまぶしい
体中泥だらけで あちこち擦りむいていた
どうやら私は助かったらしい
近くの農道を小学生達が並んで登校するのが見える
安堵のため息をつきタバコに火をつけて
家に向かった
妻が台所で食卓の用意をしていた

「あなた、おかえりなさい」

私は風呂に入り仕事に行く用意をした
味噌汁がうまかった
妻がこちらを見て微笑んでいた



自由詩 夜の森 Copyright 星丘涙 2016-12-10 07:01:36
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