舞い上がる灰
田中修子

うえの部屋の犬はたぶんパグで
飼い主は
水商売の女の人じゃないかな

このごろ寒くなってきて
女の人仕事にいかなくなってきた
誰かと電話をしたら
いつも怒鳴りあいになり
さいご泣いている

「ね、わたしもなんだか涙が止まらないの」

冬だからね
だからねむりなさい

昔の貧乏人は
よくねむって節約したもんだ

ずいぶんと白髪の増えて
すこしばかり二重顎になった
あなたがわらって

尻尾曲がりの猫がナーォと鳴くと
上の部屋のおそらくはパグが興奮して吠え
ペット可物件のこのアパートはずいぶんとにぎやかだ

廃屋とともに私の胸を
赤く燃え盛るように焦がしたニ十歳上のかつての恋人は

いま わたしに

「おとうさん」

と呼ばれ
舞い上がる灰のように白くわらう


自由詩 舞い上がる灰 Copyright 田中修子 2016-12-05 23:28:39
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