鈍色の匙
ただのみきや

日差しは入り江を満たす穏やかな波のよう
ちいさな冬も丸くなった午後の和毛のぬくもりに
鉢植えの場所を移しながら
――古い音楽が悪ふざけ
週日開きっぱなしのトランクをむやみに閉め隅へ蹴る
――はみ出した雑事のヒラヒラ
なんら重要ではないひと時(わたしの詩のよう)
結び目が解けて流出する
思考せず感覚する海の生物のように


追い求める幸福はなく
探し求める楽園もない
記憶には日没があるだけだ鮮やかに
閉ざされた未来へのひとすじの光もない永劫の


過剰に刺激を求めていた縋るためではなく溺れるために
さし伸べられる幻影の輝きに青白い頬を高揚させながら
同じことをしてももう二度と
同じように夢を見ることはない


足りないくらいが丁度いい
あと少し欲しいくらいが
注がれた部屋一杯分の時間
モノクロの音楽と虹色の記憶をかき混ぜる
――鈍色のさじ加減


がむしゃらに自分の闇を照らそうとした時代の
つけを支払うような暮らしの巡りにも
新しい時代の歌声が流れるように
今この時代の歌ではなく
未来への予感を
赤ん坊の泣き声を
追い縋ることなく
眺めながら
遥かに開けた地平の向こう
焦がれることなく
想いながら
旅人がひと気のない土地で見かける
低く奇妙に捻じれた樹のように
時に光を纏い影を濃く
喜びと悲しみを縫い合わせては
雨にうなだれ朴訥に
風と踊るように
瞑るように
眺めながら


――ちいさな鉢植えの土の乾き
わたしはわたしを養う
なにかを養うことで




                 《鈍色の匙:2016年11月23日》












自由詩 鈍色の匙 Copyright ただのみきや 2016-11-23 17:24:19縦
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