入院
5or6
二日前
胃の違和感がして
嫁に病院まで送ってもらい
検査をして
盲腸といわれ
緊急入院をした
あまりの急な展開は
まるで父さんのようだなと
思い返して携帯を眺めた
ただの風邪で入院した父さんは
治る事なく肺炎になり
あっけなく死んだ
それから入院に関して敏感になった母さんは
入院時間を無視して
嫁よりも朝早くに面会に来て
かき集めた小銭を入れたガマグチを置いていった
初めての入院で
最初に役に立ったのはそのガマグチだった
昨日
窓際の方が退院したので
看護師にすかさず
そちらに行きたいですと言って移動させてもらった
何回も見た
病院のベットから外を見て
落ち葉が落ちたら死ぬとか死なないとかのシーン
あいにくここは四階で
一本の木に付いた葉はなかった
青空は見えた
そこに鳥が羽ばたいていく
と想像する僕を見つけて嫁は
勝手に場所変えないでね
と文句を言った
葉っぱが見たかったんだと言って
もう一度ベットで寝返りをした
夜
点滴が終わると
まるで命を与えていたものが
逆に食い殺そうとするかように
細い管に血液が逆流していく
無機質な点滴の袋の中に
僕の血液が入り
その血液で誰かを救えるのかなんて
空想する間もなく看護師がやって来て
新しい点滴を入れ替えてしまう
こうして点滴の袋は
辿り着く事の無かった赤ではなく
透明のまま
捨てられる
今
もしやり直せるのなら
どんな苦痛でも耐えるから
盲腸に酸をかけて初期化させたい
でもそれは理想だ
現実は点滴の針を入れるのにも躊躇してしまう
痛くないと嘘をついて過ごしていても
いつかはそれが嘘だとばれて
痛みを忘れた罰を受けてしまう
だから初期化させたいという考えをやめて
いつか終わる点滴を眺める