HAL

旅を続けるのに少し疲れを覚えたので
近場の坐れる石を見つけて腰を下ろす
いつも足元だけ見ていたと気づいて
久しぶりに顔を上げ空を仰ぎ見てみる

もう秋の色ではなく冷たい青のなか
白い雲がひとりぼっちで浮かんでいる

そろそろ歩きはじめてみようかと腰を上げる
もう背負う荷物はほとんどない
それでも昔に比べて歩みは随分と遅くなった

健やか行く者は静かに行く。
静かに行く者はゆっくりと行く。
ゆっくりと行く者は遠くまで行く。
そう残した賢者の言葉を想い出す

ぼくの遠くはどこまでだろうか
それとももうそこは近いのだろうか
風が金木犀の匂いを放ちそっと背を押す

満開の桜を見たのは
つい昨日のように思えるけれど
冬を越せばまた桜も咲く
どうやら旅はまだつづく


自由詩Copyright HAL 2016-11-21 12:56:18
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