夜空を想う町医者
りゅうのあくび

事務のことが
あまり分からずにいた
町医者はようやく
面接を終えたあとでした
この紙は職安にFAXすればよいのかしらと
採用を決めていましたが
横たわる夜空に向かって
そう尋ねたのでした
見習いになった
事務員は静かに
はいと応えただけでした

ちょうど昨夜の町では
この病院が
当直の夜間診療でした
夜泣きをして困っていた
幼子(おさなご)のお母さんが
再び相談に来ていました

幼子のお母さんは
夜空がどうして黒いのか
幼子に教えてあげられなかったので
その理由の答えを
一緒に考えてくれたらとの
依頼でもあるのでした
そんな話し声が
ふわりと浮かんで
聴こえて来ていました

雨降りの日にもかかわらず
まるで昨晩の月夜に
流れた涙をいっぱい集めるように
お母さんは
夜空はどうして黒いのかと
暗闇があるのは
幼子には怖いことなのかどうか
ふと困り考え込んでいました
夜空の不思議を
考えていたのです

それでも幼子は
世界が光と影とで
出来ていることは
きっと分からないだろうと
想うのでした

町医者は
その理由の答えだと
やはりお母さんも
幼子もわかりません
と云いました

夜空という暗闇が
きっと地球という静かな星を
灼熱の太陽から
守っているのよと
教えたらどうでしょう
お母さんから産まれた日も
夜空のなかで
生まれたことにすればどうでしょうと
伝えてみました

お母さんからは
一滴の涙も
流れはしなかったのです

ちょうど
その晩の夜空は
透き通っていました
遥か遠くにある星ですら
よく耀いていたのです
お母さんの腕のなかで
ようやく幼子はすやすやと
眠っていました


自由詩 夜空を想う町医者 Copyright りゅうのあくび 2016-11-19 23:57:30
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