さそりの心臓
ワタナベ

指先であそぶ旋律がピアノの鍵盤の上を流れて 
部屋に溢れるやさしい音階のすきまに
天球図は青くひろがってゆく
東のかなたの
さそりの心臓は自ら発火し
そのきらめきは引き出しの奥で眠るルビー
観測されるこまかな粒子は
透過する光の空間に
不安定に浮遊しながら
おもいおもいにあそんでいる
そして
薄明の大気のような
静謐とした調和にしたがい
かたちづくられてゆくその
さそりの心臓は
しずかに燃焼しつづける

目にうつる光がルビーのこまかな粒子を透過し
空間に溢れるやさしい単色光のすきまに
天球図は青くひろがってゆく
北の破軍星は極点を中心にめぐり
さそりの心臓を貫くと
ルビーははじけて
天球体の頂点から
輝きながらふりそそぎ
大気圏で燃え尽きてゆく
夜空いちめんの流星雨

七曜の星のひしゃくにわずかに残った
すきとおる一滴の水が
部屋も空間もすみやかに満たし
あらたにかたちづくられるさそりの心臓は
天球図の東のかなたで
しずかに燃焼しつづける



自由詩 さそりの心臓 Copyright ワタナベ 2005-03-03 14:56:16
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