夜へ ふたたび
木立 悟
午後の羽の蝶が群がり
枝は一時 空に呑まれる
実は鉱に転がり 水に落ち
空へ還る空を見つめる
砂漠の火花に
鳥は降りる
そこに在ったかもしれない命の
無機と無情の歩幅を辿る
寒さは 二十二時に微笑んだ
役割を終えた蜘蛛の巣の向こう
そこに居るはずのないひとを
凍える鉄に写し取った
無声映画の光が響き
去るものは来るものを振り返る
それは山のように巨きく
風もなく すぎてゆく
押し流そうとする色に
言葉の指は抗ってゆく
翻る旗の破れめの星
見えるはずのなかった時間
激しく上下する曇のはざまに
向こうの向こうの向こうが揺れる
いつかどこかで聞いた音
夜明けと夜更けの匙の水紋
雨を透り
さらに雨を招び寄せる声
夜は遠く だが近く
午後の羽の影を描く