感覚
鷲田
36度の体温の中には均等なバランスが組み込まれている
それはまるで一段一段の歩みを形作る階段の傾斜のように
着実であり、無難である
命の装億は平然な顔をして日常を過ごしている
森羅万象とその中にある人間の生命は儚くも脆弱なものである
それが本質であり、破天荒は瞬間と交尾する一つの快感でしかない
短命は太いがそれだけ短い
そこにある美しさは繊細で危うい堕落へと誘う甘い蜜の味がする
生きるとは鈍感なまでの強度を備えた弛まぬ歩みなのである
着火した情熱はエナジーを燃やし、整理された事象を破壊しに行く
そう、それは破壊である
日常という政治に対するテロリズムである
熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い
燃え盛る高層ビルは日々の屈辱に拳を振り上げる反乱である
夏の日の炎天下は冬の凍えた寒さを前提とした免罪符の手形
降りしきる粉雪は地面に辿り着く際に道路に出来た僅かな水滴の冷たさを覚えている
冷たい、冷たい、冷たい、冷たい、冷たい、冷たい
凍える寒さは
熱さのエナジーの煽りを受けた反対側の感情である
向こう側の感情には何時も理由がある
それは凹凸のバランスを保つ高揚と停滞に他ならない
だから、夏が欠伸をすると冬はよく眠れる
そうして季節には法則があり、空の気紛れに支配される我々人間の感情にリズムを作る
春の陽気と秋の紅は穏やかさの中に主張を説いた
春に咲く花はその花弁の美しさで会話をしている
秋に彩る紅葉はその色合いでメロディーを奏でている
言葉と音色は平静の時に大気と融合する
穏やかさと心地よさの共存
それを幸せと名付けたのは他でもなく肌の感覚である