ある朝こぼれ
ただのみきや

舌先で像を結ばない
時代の陰りの不安漠然とした
――漏出か
灰に灰よりも濃く灰を溶き混ぜた
ような雲
 も 時折 
    裂 け
息苦しい断絶の青さ遠くかもめのように過る
無垢のまま去って往くものたちよ
その残光のフィラメントを追いかけて瞳は乾き
強張る肉体に魂は締めあげられる


人として生きる夢から覚めた老木は
虚空を掻き毟るその枝の動きすら風任せであったことを知る
見つめ 欹て 感じながら
受けることしか 全てを
拒みつつも受け入れることしか
戸惑い 
――静かな葉脈の水音 
諦め
――まだ固い蕾の兆し
祈りのように触れない救済の匂い
ただ在って生きながらに朽ち与えてはまた奪う
  この夢から覚めよ
  この夢から覚めよ


明文化されたものたちはよそ行きの装い
知性は無意識には小さすぎるランジェリー
引かれ押され突き動かされて
透明な裸体も隠せはしなかった
  自嘲のリボン
  哲のかんざし
眠りの夢の向こう暗黒の海うねる黒髪の


剪定された薔薇の首のない死体
それが真の姿
美しいかんばせは移ろう現象に過ぎない
薔薇の
無意識から花は咲く
そうして花だけが人と通じ合い
花のために薔薇は剪定される
理由はいつでも後付けされる
無意識に花は花を終える
理にかなった鋭い切り口ほど
創造からは無造作と見なされるものはない


芝草は枯葉を重ね淡く雪を纏う
ヤマガラ
シジュウカラ
スズメ
制服の色を変えただけの背丈も近い小鳥たちが遊ぶ
潜められた死の源泉の囀り
震えながら
途切れ途切れに繋がれて往く
生の
上澄みだけをいま筆先で薄く延ばしながら
  わたしたちは卵
  わたしたちは蛹
  わたしたちは棺
小さな殻の中の混沌のうねり




              《ある朝こぼれ:2016年11月16日》










自由詩 ある朝こぼれ Copyright ただのみきや 2016-11-16 21:17:20
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