かたむいていく夜
小林螢太

虚しさは
ろうそくの炎のように揺らめいて
正体を見失う
スマホをスクロールさせても、行き過ぎてしまって
たどり着きたい所にはいけない
私たちは正しく嘘を粉飾できないでいる

街灯ひとつで照らしだせる不安の膜外で微睡んでいる
ガラス越しの外気の凍てつく画像の中にいる
10秒チャージの夕飯の食卓にいる
想像することは容易いことだけど
歯を食いしばり立ち上がる人を斜めに見みながら
私たちは何をうしなったんだろう



ぼんやりとひかるデジタル時計の
午後12時から午前0時に切り替わるしゅんかんに
1クロックごとの瞬きは
美しく壊れやすいジグゾーパズルのようで、

喪われた自我をとり戻すための触手を伸ばして、
私たちは深く検索をくりかえす
意味は自問のたびに消失し、夢のように忘却する
もう孤独であることはむりなのかもしれない



おやすみ、12時のない時計
間延びしたサイレンの音、記憶をなくしたメモリを内蔵して
私たちは、どこにいくのか
どこへいこうとするのか
希薄な問いはかすかな自壊を含み波紋をひろげる
きっと、少しずつ停滞していく
さようなら、虚しき炎
夜の積もる灰を掬いながら
私たちは、しずかにかたむいていく
 
 

 

 



自由詩 かたむいていく夜 Copyright 小林螢太 2016-11-13 01:06:50
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