おのころ草
春日線香
裸の男が消えたあと
庭の片隅に不思議な植物が生えてきた
ひとつひとつの葉がのっぺりと丸く
それが重なって層をなし
傍目には一個の大きな球体のように見える
つやのない葉は太陽の光を反射せず
どこか薄墨色でぼやけた表情をしている
すぐにでも切って捨ててやろうと考えていたのに
なんだかもったいないような気もして
延ばし延ばしにするうちに手に負えなくなった
火をつけてやろうかとも考えたが
こんなにも大きくなっては火事になってしまいそうだ
今日また庭に洗濯物を干しながら
思案にくれてその姿を眺めていると
ふいに葉叢の奥のほうに
無数の鈴状の花が咲いているのを見つけてしまった
あれからすでに
一年が過ぎていたのだとこの時はじめて気がついた