天体とこころ Ⅲ
白島真
昔、通っていた中学校の屋上に
天体観測の丸いドームがあった
天体望遠鏡を覗き込むと
こころの暗がりがみえた
こころはどの星だろうと
それから何十年も探し続けているが
まだわたしの名前をつけた星はない
眼をレンズに近づけるとき感じる
あの一瞬の恐怖は何だろう
見てはいけないものを見るからだろうか
そうだとしたら
こころは
見てはいけないものかも知れない
生物の時間に
もちろん顕微鏡を見たこともある
毛だらけの脚に
さらに無数の毛が生えていた
ぐにゅぐにゅした
水飴のようなものが動いていたこともある
ここでもこころを探してみたが
突然、化学の時間になって
試験管から煙が噴き出しただけだった
こころが痛い
盗みや殺人を犯したわけではないのに
こころが痛む
わたしがわたしを殺し続けてきたせいかも知れない
わたしの肉体には
言葉の花が咲いている
「百年の孤独*」に登場する科学者が
特殊な天体顕微鏡で
それを見る方法を教えてくれたのだ
言葉の花の老いたおしべから
いま、若いめしべが発芽しようとしているようだ
どちらもわたしのものだ
真っ青に落ち込んでいくものだけが好きだった
それがこころだと思っていたが
赤い踊りに身をくねらすことも
いま、こころはできる
たましいと
こころを
勘違いしていたのかも知れない
*ガルシア・マルケス「百年の孤独」(2014年4月17日ご逝去、合掌)