きみが読む子供の本
おなべ
きみは星座のように古い考えかたをしている
たぬきの肉を食べた老人がいる
きみはひとつの童話を読む
本を机に立ててぴんと背筋をのばして
文字と対決するようにしてそれを読む
ストーリーのそのストーリーの部分
きみは時折汗をかく
ハンカチで顔をふく
瑠璃色のガラスをとおして鳥のなく声がきこえる
はたしてそれが鳥なのか、または大きな車が前の通りを進む振動が
空気やガラスをふるわせて
きみの汚れた顔に届くのか
日差しが部屋に飛び込んでくるようでまぶしいがそれも朝なのか昼なのか
または夜の分度器のような半円球の笠になった灯りなのか
きみはひとつの童話のなかでたぬきが食われる場面を読み
それが君の目のなかに口のなかに耳のなかに
キシリトールのガムを噛むみたいに
どんな変化を与えるのか、それをくわしく考えること、描写することができるのか
いきいきとした言葉で自分の感覚を紙に写すことができるのか
考えているけれど
どうにもぼやけた言葉にしかならない
それできみは残念な気持ちになる
気持ちのその気持ちの部分
たぬき
本立て
手ぬぐい
犬
ぬいぐるみ
三日月
キシリトール
瑠璃色ガラス
鳥の羽根のはえた子供 金髪の子供 水色の髪の子供 よく食べる子供 よく食べられる子供
虫の肢の子供 おっぱいの大きい子供 血を飲む子供 頭のおかしい子供
そういう子供が出てくる本をきみは読み
その子供たちになにか役割を持たせたいと考えている
星座のように古くからある役割
きみがころんだ時に立たせてくれる役割
きみの言葉になる言葉
子供のような子供
きみのことを忘れさせてくれるきみが読む子供の本