夏をみる人
白島真
あなたは夏をみる人だ
うつむいたレースのカーテン越しに
あなたは白い夏をみるひとだ
窓辺にもたれながら、口をすこし閉じて
花模様のレースの編み地には
猫の引っ掻き傷と
とれない汚れがほほえましい
編み目が透明なガラスをはさんで 庭を映す
手入れをしない原生林のようなみどりの庭を
あなたは好む
それでもやや正面右の猫の墓たちの
周りはおしろい花や紫陽花を植えて
「移り気」という花言葉を思いながら
あなたはもう 見られている
紫に朽ちかかった萼、猫たちの瞳から
一枚のガラスと編み目を通して
風は聞こえない
梅雨のなごりのにおいさえ
振り向いたあなたは
わたしをみる わたしに見られている
夏の陽光を背にうけたあなたは
レースのこちら側で
白い夏をみるひとだ