まぎわの波際
はて

指に指先を這わせて
忘れたい背中を撫でて
水を飲む
触れれば触れるほど青く染まっていく
フルートの音が響くように
海の色に浮かぶ
背中は遠くなって
見知らぬ街の中でやっと
消える波際
溶けた砂糖が指先に
触れることができないでいる
水滴のついたグラス
水面は涼しく
秋の空を写している
その間、水があった場所
乾いていった夏の場所
テーブルの上
指をなめて
まだ残る甘さを
おしぼりで拭い去る

手にした写真をしまう

白波が目立つ海の青さが底を隠す
そのことを想う季節になって
海など見ない季節になって
隠された底で息、つく
間際に

眠る時間が引き伸ばされていく
冬に向かう夜が長引いていくから
満ちていく時間が緩やかに後ずさりする
寒さを湛えた海の色をこえて
深まりゆく
深まりゆく
眠るまでの間
振られゆく
揺られゆく
まぶたの裏に
星が輝き始めて
光量を増してゆく
舞台の上で幕が開く
聴衆の声が引いてゆく
さざなみと忘れたい背中
強度を増してゆくフルート


自由詩 まぎわの波際 Copyright はて 2016-11-03 00:08:31
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