『お菓子をくれなきゃ』
葉月 祐
狭い夜にいつまでも耳鳴りに似た静寂が居座って
私は緩やかな速度で平衡感覚を失っていく
何も無い訳ではないのに何も掴めないこの手には
言葉にもしたくない汚れだけがこびりついている
不幸自慢なんて人生をさみしく彩るような事はしない
ただ今は感情のネジが抜け落ちて箱が大口を開けているだけ
それは時期的にもハロウィンのジャック・オ・ランタンみたいで
いっそ面白そうじゃないかって思っているよ
中身を限界までくり抜いたカボチャみたいに
口角を吊り上げてこの箱を笑わせてやりたくて
自分も無理矢理それを真似てみるけれど
やはりそれもうまくいかなかった
この夜もまた大口を開けて私の中にある暗闇を狙っている
油断すればそれは一瞬の事だろう
箱はカラカラと満たされない音を鳴らして揺れていた
夜を照らすカボチャだけがケラケラ笑っている
ああ、君には何もあげないよ
どれだけこの静けさのボリュームを上げてもね
イタズラしてくれてもあげるものが無いから
諦めてくれるかい
――――――その飽和した感情で良いだって?
尚更ダメだな、
これは君の持ち物にはならないものなんだよ
悪いけど他をあたってくれるかな