秋の夜の夢
塔野夏子

夢の中で僕は君と 宵闇降りる街を歩いていた
それはたしかに 僕が生まれ育った街だったのだけれど
僕の記憶にあるよりも なんだかきらきらしていた
まるでトワイライト・シンフォニーが聞こえてきそうだった

僕たちはアーケード街に入った
もうすっかりさびしくなったよ と云われていた街だけど
華やいでいてざわめいていて
なんだ昔のままじゃないか と僕は思ったんだ
そうそうあの角のあたりに映画館があったはず
などと思いだしながら歩いているうちに
君とはぐれていたんだ

僕は君を探した
アーケードを行き交う人のあいだをすり抜けて
だってこの街について君に話したいこと
たくさんあったから

僕は君を探した
探しているうちにふと アーケードの途切れ目に出たんだ
もうすっかり夜になっていて
びっくりするくらいたくさんの星が頭上にきらめいていたんだ

ああ
ふたたび君を見つけるならこの場所がいいな
そう思っていたら目がさめた

  ねえどうしても思いだせないんだ
  あの街の不思議なきらびやかさも
  最後に見上げた星々の瞬きも
  脳裏にすごくあざやかなのに
  僕といっしょに歩いた
  そして僕とはぐれてしまった「君」は
  いったい誰だったの

起きあがって窓をあけたら
かすかに銀木犀の香りがした



「トワイライト・シンフォニー」は伊藤銀次の楽曲(作詞は銀色夏生)
この詩では必ずしもそのイメージで捉えていただく必要はないのですが
曲をご存じの方は、思い浮かべていただけたら嬉しいです。





自由詩 秋の夜の夢 Copyright 塔野夏子 2016-10-27 22:00:03
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