空の鍋叩き
ただのみきや

立てかけたエレクトリックベースの
三絃のペグが反射して
眼球の面をにわかにすべりながら
谷底に微かな光を届けている
祈る女の言葉に
二つに引き裂かれたのだ
気が付けばカエルやコウモリばかり握っている
銀色の鍵が空っぽのまま火にかけられた鍋をかき混ぜると
心は犬のように晴れやかに放たれた
しろい毒まんじゅう
女の裸に虹がかかり
新しい地図が刺青される
甘い汗
真っ白い羽毛を張り付けて言葉を覆ったが
あっちの方は丸出しでおっ立てたまま
浜辺でジプシーたちと踊っていた
音と光はよく似た波で
泳がずに流されれば暗い半球までたどり着くだろう
おれの左目を持ったまま
笑って時を違えてほしい
からだの中で目を覚ます夜には
かならず想うことだろう
初めから失っているものこそが
全ての答えだと
決して埋まることのない喪失こそが
繰り返す始まりの欲求
オンの踊り立ちあがる蛇のように
おまえ
定義よりが似合う




         《空の鍋叩き:2016年10月15日》









自由詩 空の鍋叩き Copyright ただのみきや 2016-10-15 22:06:11
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