スリープレス
坂本瞳子
眠りたいのに
眠れずにいる
否
本当は眠りたいだなんて
少しも思っていない
できることなら一晩中起きていたい
二四時間三六五日
一睡もすることなく
起きたままでいたい
したいことがある訳ではなくて
ただ眠りたくない
君の顔を見ていたいだなんて
そんなこと言いやしない
暗闇が恐いとか
そんなことでもない
ただ眠りたくないんだ
ぼーっとすることもあるだろう
なにも考えずに過ぎゆく時刻を見つめたり
恐怖に慄き捉えられたまま過ごす時間もあるかもしれない
それでも眠りたくないんだ
もう少しでいい
ほんのもうちょっと
起きたままでいさせておくれ
大人しくしているから
ここで
こうして
静かにしているから
もう少し
ほんの少し
朝陽の欠片があの窓の向こうから
差し込んでくるまで
山の向こうが赤らんでくるまで
冷たい夜の空気が少しずつ
熱を帯びてくるまで
ここでこうして
沈黙に抱かれているから
眠らずにいることを
許して欲しい
お願いだから
なんでも言うことを聞くから
眠らないでいさせて
土下座だってするから
おでこを地面に擦り付けるほどに
卑屈になって
謙って
懇願してみせるから
眠らずにいたい
ただそれだけなんだ