天体とこころ Ⅱ
白島真



心臓に張巡らされた無数の血管のように
言いたいことがあるのに
それが言葉にならないって
きのう電話できみに話したね

勿論、お互いの苦悩や孤独のこととか
きみへの愛や関係性とかいうことではないと
きみも知っていたはずだ
ここにも言葉のない「言葉」があったね


母親の胎内にいたとき
きみの声をたしかに聞いたことがある
きみの言葉を小さな耳近くで聞いたことがある
きみのイメージをまだ尻尾の生えた体で感じたことがある


そしてぼくの臍の緒が切られる瞬間を
きみもたしかに見ていたんだよ
きみはぼくよりずっと年下で、この世の種にもなっていなかったけど
このことはぼくの思い過ごしじゃないと思う


大きな言葉の海のような羊水を
なんにんかのひとと一緒に渡ったね
手をつないでいたのはきみとだけだったけど
言葉はそれを見て 覚えていた


天体旅行には
あまり期待はしてないんだ
それより
小さな言葉のうつくしい屈折を感じる方が
天体旅行への早道だと思うから




自由詩 天体とこころ Ⅱ Copyright 白島真 2016-10-07 18:32:33
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