詩/代償としての
ただのみきや

光の傾斜のよわいめまい

いななきも止んだ朝の膨らみ
秋は秋と重なって遠近を失くしながら
凧のように くうくう 淡く燃え


無限の、 矛盾の、 
存在の、 根幹の、
宿り木の、 日毎の雑事の繁りの隙間の、 
射してくる不朽の、
問いである答えの、
微笑みである悲しみの、
力なくこみ上げる咳の、
青黒い輪郭線の
左頬の、 あなたの、


広げた翅を上手くたためず
窮屈な上着の裾からはみ出して
いつか、 いつかと、 いつのまにか、
擦れて汚れてぼろぼろに
風も光も抱けないまま呪縛となって


広げた地図を上手くたためず
隠し切れずに懐からはみ出して
果たし状か、 遺書か、 恋文か、
すっかり黄ばんで色褪せて
枯れ茎のように裸で虚空に刺さったまま


十月の空は深く青く
気層の底に沈んだ天使の殻を借りて
奇妙な生き物が上って来る
地平の向こう
意識の半球から這うように


孵らない音節の、
白杖の、
ように振りかざし書き連ねられては消されて往く
瞬きと片言の、 揺らめきの、
のっぺりとした生命の、 忘却の、
暗い河面の、 閃く鬼火の、


   じゅっ という  オト の


がらんとした肉体の隅で
萎縮した精神は己の闇に怯える
響く透明の鐘の音の
幾重にも剥がれ落ちながら
死を待つ
  などしてもしなくてもひとしく 
             ふたしかに


悲しみと喜びを乗せた天秤の傾きのように
あなたは微笑んだ
大気には柿の実色の光が溶け出して
倒れ伏した影はその身より長く
仕舞い込んだ暗渠を測りだしている


生は生を内へ内へと貪った


ナナカマドの、 紅い実を飾る秋の、 
輪郭の、 指先の、 
ささやかな愛撫の、
果ての、 代償の、
瞑目の、 煙としての、
「マルメロ見ろ! 」と叫ぶ白痴の、 
      ビーナスの、 
    踏みしだかれる乾いた精神の
            
           文 裂





            《詩/代償としての:2016年10月5日》











自由詩 詩/代償としての Copyright ただのみきや 2016-10-05 22:31:08
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