イタドリ
Lucy

友と道北を旅した
車窓から見えるのは
線路脇に繁茂する
沢山のイタドリ
「イタドリすごいねえ」というと
「いたどりってなに?」
と、都会育ちの友が言うので
「イタドリ知らないの?
ほらあれよ、線路の脇や
山裾のやぶや川の土手
あっちのあぜ道や
ほらあそこにも
こっちにも見えるでしょう
団体ではびこって風に揺れている
あの背の高い草の名前よ、
ね?
すごく繁殖力が強いんだって
花が意外に白くて可憐なので
ヨーロッパに持ち帰った人がいて、
増えすぎて庭を占領されたばかりか
家の中にまで生えたって話、聞いたことあるよ。・・」
わたしは一気にしゃべり続ける
「あの茎が秋に枯れるとスカンポって言ってね、
ぽきぽき折れるから、子どものころは
棒っきれがわりに振り回して遊んだものよ」
教えてあげると
しばらく彼女は
「あーほんとだ。あそこにも、こっちにも、
あれ全部イタドリなの・・。}
と感心していた。

翌日の早朝、宿を出て
大きな川岸を散歩していると
彼女がしみじみという
「すごいね、昨日までイタドリなんて私にとって
存在しないのも同然で、全く目に入っていなかったのに
名前を知ったとたんに
世界中が至るところイタドリだらけになった・・。」

私たちは橋の欄干につかまって
川岸の雑木林や高い山々を映しながら
とうとうと流れる川を見下ろしていた


実際には目に見えているのに
見えていないのと同然のものが
世界には満ち満ちているのかもしれない


ある日突然知ってしまった
人の悪意や欲望に
一瞬で世界が塗り替えられることがあるように


今聞こえている鳥の声や
川面をよぎる燕の影も
何処までも平和に続いて見える
緑の畑も
私の意識に映っているのは世界の
ほんのわずかな一部にすぎず
彼女と私が見ている景色も
おそらくは全くちがうのだろう


初夏の真っ青な空の下
私達は二人して
遮るものの何もない川面に
触ると指が切れそうな光が
まっすぐに降り注ぐのを見ていた








自由詩 イタドリ Copyright Lucy 2016-10-04 01:03:21
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