その光の理由
ホロウ・シカエルボク





円錐形の反射が
カーテンの隙間から潜り込む
あれは外灯だろうか
あまりにも揺れていて
息づいているようだ


南に居る嵐のせいで
むせかえる夜中だ
はりついたシャツを脱ぎすてて
新しいものを出した
いつまでもいい気分じゃいられないことは判っていたけど


昨夜はとてつもなく長かった
ウンザリするような映画を真夜中に観ていた
たぶんまたひとつ歳を取ったせいだ
とてつもなく人を殺す場面を観たとき
あなたならどちらの側に立つだろう?


「どちらの側にも立ちたくない」と言うのなら
あなたは偽善者だろう
「とてつもなく殺される側だ」と言うなら
あなたは理想主義者だろう
「とてつもなく殺す側だ」と言うなら
あなたは俺と握手をするだろう


時勢や他人の尻を嗅ぎ回らなけりゃ
なにも始められないお粗末な野郎が
俺の昨日から一言くすねて
俺の半分も書けやしない
そんな笑えない喜劇を見た


機械的なワルツの旋律
俺はその曲線の
一番曲がるところを捕らえながら
これを書いている
こんなものに意味などないと思いながら


実際のところ
これは主張するためのツールじゃない
伝達のためのツールでもなく
吐き出すためのものでもない
例えて言うならこれは風のようなもので
指先が始点だ


ゆっくりと吹き始め
次第に強くなり(まるで台風のように)
渦を巻いたり
草を舞い上げたりして
それから居なくなる
それがどんな風かは
誰がどこで受け止めるかによって変わる


意図のある言葉は
いつだって交通標語と大差ない
そこに書いてある以上のことも
そこに書いてある以下のこともない
感想を述べるとすれば
否定か肯定か
無関心以上のものは
生まれることはない


もの静かなあなたは
なんのために書くだろう
確信のあるあなたは
なんのために書くんだろう
いつだって喋り過ぎる俺は
なんのために書くんだろう
結論があるなら
書かなくていいって話になる
モチーフのない筆を滑らせても
沢山の線の集合くらいにはなるだろう


平日初めの夜は静か過ぎて
ふたつ向こうの大通りの急ブレーキがはっきりと聞こえる
ところで
もしも近くで凄惨な交通事故があったとしたら
あなたはどうする?
上着をはおって飛び出して
誰がどんな風になったのか確かめに行く?
スマートフォンを持って行って
事故現場をSNSにアップする?
もしもそこに頭を踏み潰されて
脳味噌を垂れ流した死体があったとしたら


俺はしゃがみ込んでそいつの目を探すだろう


円錐形の反射が
カーテンの隙間から潜り込む
このあたりに強い光を放つ外灯などなく
道路の端で停車したままの車も居ない
その光は何処からやってくる
カーテンを開けて



そこになにがあるか確かめるべきだろうか





自由詩 その光の理由 Copyright ホロウ・シカエルボク 2016-10-04 00:20:52
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